――カーテンを揺らす風が、遠くの草をなでてきたような青い匂いを運んでくる。
ぼくは教卓の横のサイドデスクで、清水先生と何気ない会話を交わしていた。
「――ねえ先生。なんで眼鏡してるの? 目が悪いの?」
『そうだな。眼精疲労で視力が落ちたんだ』
「へー、がんせいひろうって何?」
『長時間画面を見続けて、目が疲れ切ってしまうことだよ。休んでもなかなか回復しないんだ』
「へぇ……先生、スマホ見すぎ。スマホ依存症だー」
『ま……そうかもな』
好きな人と話すことが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。
一目惚れであり、ぼくにとっての初恋だった。
もっと近づきたくて、ぼくは手を伸ばしかける。
「あ、先生。その眼鏡、貸して――」
「ねえねえ、ゆーちゃん! 咲さ、昨日コンビニでゆーちゃんのこと見たよ!」
突然、甲高い声が割り込んできた。
髪を巻いた派手な女子と、その後ろでニヤニヤしている女子。
ぼくの手は、先生の眼鏡に届くはずだった。あと数センチ。先生の視界を、ぼくだけで埋め尽くせたはずなのに。
その「あと少し」を、汚い指先に奪われた。
彼女たちを観察する。巻かれた髪には枝毛が目立ち、後ろの方はまともに巻けてもいない。
(汚いな。下手なら巻いてくるなよ……)
言葉を遮られた苛立ちが、どろりと胸に溜まっていく。
『あはは。咲だったっけ? 大丈夫か、コンビニで万引きなんてしてないだろうな?』
先生が笑う。他の生徒と楽しそうに話す顔を見て、胸が締めつけられた。
それだけじゃない。先生が今の女子を『咲』と下の名前で呼んだことに、ぼくは気づいていた。
視線を落とし、黙って自席に戻ろうとする。
その途中、教室を走り回る男子と肩がぶつかった。先生は気づいていない。
「……チッ、なんだよ」
舌打ちされ、ぼくはそいつを睨みつけた。最悪な気分だ。
ぼくは教卓の横のサイドデスクで、清水先生と何気ない会話を交わしていた。
「――ねえ先生。なんで眼鏡してるの? 目が悪いの?」
『そうだな。眼精疲労で視力が落ちたんだ』
「へー、がんせいひろうって何?」
『長時間画面を見続けて、目が疲れ切ってしまうことだよ。休んでもなかなか回復しないんだ』
「へぇ……先生、スマホ見すぎ。スマホ依存症だー」
『ま……そうかもな』
好きな人と話すことが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。
一目惚れであり、ぼくにとっての初恋だった。
もっと近づきたくて、ぼくは手を伸ばしかける。
「あ、先生。その眼鏡、貸して――」
「ねえねえ、ゆーちゃん! 咲さ、昨日コンビニでゆーちゃんのこと見たよ!」
突然、甲高い声が割り込んできた。
髪を巻いた派手な女子と、その後ろでニヤニヤしている女子。
ぼくの手は、先生の眼鏡に届くはずだった。あと数センチ。先生の視界を、ぼくだけで埋め尽くせたはずなのに。
その「あと少し」を、汚い指先に奪われた。
彼女たちを観察する。巻かれた髪には枝毛が目立ち、後ろの方はまともに巻けてもいない。
(汚いな。下手なら巻いてくるなよ……)
言葉を遮られた苛立ちが、どろりと胸に溜まっていく。
『あはは。咲だったっけ? 大丈夫か、コンビニで万引きなんてしてないだろうな?』
先生が笑う。他の生徒と楽しそうに話す顔を見て、胸が締めつけられた。
それだけじゃない。先生が今の女子を『咲』と下の名前で呼んだことに、ぼくは気づいていた。
視線を落とし、黙って自席に戻ろうとする。
その途中、教室を走り回る男子と肩がぶつかった。先生は気づいていない。
「……チッ、なんだよ」
舌打ちされ、ぼくはそいつを睨みつけた。最悪な気分だ。
