精神崩壊

 麗らかな春の嵐が窓を叩く音だけが、僕の部屋の静寂をかき乱していた。
 学校に行かなくなってから、僕の世界は四畳半の空間と、枕元で鈍く光る銀色のスマホだけに集約されていた。カーテンの隙間から差し込む光は、不純物のように僕の肌を刺す。僕はただ、暗闇の中で「清水先生」という偶像が、世間という名の濁流に飲み込まれ、形を変えていく様を画面越しに監視し続けていた。
 一階からは、母の掠れた声が断続的に聞こえてくる。
「……ええ、あの子は被害者なんです。あの教師が一方的に……いえ、そんな……嘘じゃありません!」
 受話器を叩きつける音。皿が割れる音。母にとって、僕が受けた心の傷などどうでもよかった。彼女が守りたいのは「将来有望な息子の母」という自分の輪郭だけだ。家を出て行った父が残した空白を、先生という立派な肩書きで埋めようとして失敗した彼女は、今や崩壊した家の中で、幽霊のように彷徨っている。
 僕はそんな音を、手入れの怠った毛先を眺めるような冷ややかな目で見送った。
 僕にとっての現実は、ここにはない。
 画面の向こう、掲示板で執拗に叩かれ、住所を特定され、石を投げられている「惨めな先生」の姿こそが、僕の生きる糧だった。