翌朝、ボクは駅には行かなかった。
スマホの電源を入れ直すと、画面がフリーズしそうなほどの通知が押し寄せた。先生からの着信履歴が、無機質な数字の羅列となって数百件並んでいる。かつてはその一つ一つに怯え、服従していたはずの履歴。けれど今は、それが先生の余裕のなさと、崩れゆく理性を証明する「敗北の記録」にしか見えなかった。
ボクの不在。先生の焦燥。ネットの炎上。
それらが複雑に絡み合い、先生という数式を修復不可能なエラーへと追い詰めていく。その過程が、ボクにはどんな名曲よりも美しく感じられた。
――数日後。藍之宮中学校は、報道陣と苦情の電話でパニックに陥った。
先生の「熱心すぎる指導」は、世間というレンズを通した瞬間に「異常な執着」という醜悪な形に切り取られた。あの白髪一つない完璧な身なりも、冷徹な眼鏡の奥の瞳も、すべては「教え子を追い詰める異常者の仮面」として、面白おかしく世界に晒されたのだ。
母は、自分の憧れの対象が「犯罪者予備軍」として報道されるのを見て、呆気なく手のひらを返した。
「あんな人だと思わなかったわ。維月、あんた大丈夫だったの!? お母さん心配で……」
取り乱して泣き真似をする母を、ボクは冷めた目で見つめた。自分を『女』として見てもらうために、ボクを差し出そうとしたあの浅ましい姿。その記憶を、ボクは「手入れを怠った毛先」と同じように、不快なゴミとして心の外側へ放り出した。
ボクはただ一人、先生の最後を見届ける準備をしていた。
スマホの電源を入れ直すと、画面がフリーズしそうなほどの通知が押し寄せた。先生からの着信履歴が、無機質な数字の羅列となって数百件並んでいる。かつてはその一つ一つに怯え、服従していたはずの履歴。けれど今は、それが先生の余裕のなさと、崩れゆく理性を証明する「敗北の記録」にしか見えなかった。
ボクの不在。先生の焦燥。ネットの炎上。
それらが複雑に絡み合い、先生という数式を修復不可能なエラーへと追い詰めていく。その過程が、ボクにはどんな名曲よりも美しく感じられた。
――数日後。藍之宮中学校は、報道陣と苦情の電話でパニックに陥った。
先生の「熱心すぎる指導」は、世間というレンズを通した瞬間に「異常な執着」という醜悪な形に切り取られた。あの白髪一つない完璧な身なりも、冷徹な眼鏡の奥の瞳も、すべては「教え子を追い詰める異常者の仮面」として、面白おかしく世界に晒されたのだ。
母は、自分の憧れの対象が「犯罪者予備軍」として報道されるのを見て、呆気なく手のひらを返した。
「あんな人だと思わなかったわ。維月、あんた大丈夫だったの!? お母さん心配で……」
取り乱して泣き真似をする母を、ボクは冷めた目で見つめた。自分を『女』として見てもらうために、ボクを差し出そうとしたあの浅ましい姿。その記憶を、ボクは「手入れを怠った毛先」と同じように、不快なゴミとして心の外側へ放り出した。
ボクはただ一人、先生の最後を見届ける準備をしていた。
