精神崩壊

 ――入学式、開会二十分前。
 清水先生が廊下を歩いてくる。長い脚。迷いのない足取り。歩きながらネクタイの結び目を整える仕草すら、計算されているように見えた。
 先生は教室に入る前、隣のクラスの担任と短く言葉を交わす。
『ええ、こちらは全員揃っております』
 廊下から聞こえる、涼やかな声。一切の無駄がない。
 ドアの窓越しに見える先生の横顔は、どこまでも冷静だった。
 いよいよ、先生が教室に入ってくる。
 スライド式のドアに手をかける。不快な音を一つも立てず、吸い込まれるような滑らかさでそれを閉めた。
『まもなく入学式が始まります。身を整えてください』
先生はそう言いながら、教室内をゆっくりと見渡した。
その瞳は、まるで欠陥品を探す検品者のように鋭く、けれどひどく空虚だった。
生徒たちを「人間」としてではなく、「正しく並べるべき記号」として見ているような――。
 
 その瞬間、教室の空気が変わる。
 横から、後ろから。女子たちの浮ついた声が弾丸のように飛び交った。
「ねー、イケメンすぎじゃない?」
「ほんとそれ! 低音ボイス、たまんないんだけど」
 鼓膜を刺すような、下品な笑い声。
 彼女たちにとっては、ただの世間話に過ぎないのだろう。
 けれど、ぼくにとっては耐え難い侮辱だった。
 ぼくが見つけた『完璧』が、安っぽい言葉で消費されていく。
 それが、ただただ腹立たしかった。