「……全部、壊してやる」
ボクは震える指でSNSのアプリを開き、新しいアカウントを作成した。
先生から与えられたこのスマホ。先生とボクだけの秘密のパイプ。
それを使って、先生が最も恐れる方法で、彼をボクの世界から排除してやるんだ。
『隠しているものを、すべて部屋で見せろ』
あの時、先生の瞳の奥に宿っていたのは、教師の熱意などではなく、ただの「飢え」だった。ボクのすべてを暴き、自分の所有物としてラベルを貼りたいという、醜い男の欲望。
ボクはその不快感を、そのままSNSのタイトルへと叩きつけた。
「【拡散希望】担任の先生に『部屋見せろ』って追い詰められました。助けてください」
投稿ボタンを押し込む直前、ふと、視界が滲んだ。
ボクは、初めて先生に頭を撫でられた時の手のひらの温度を思い出そうとした。あの時は、それが世界で一番優しい魔法だと思っていた。準備室の西日に照らされて、先生が少しだけ笑ったような気がした、あの夏の日。
けれど、今その記憶をなぞれば、思い出の中の先生の手は死人のように白く、指先からは腐ったコーヒーの臭いが漂ってくる。あの魔法は、ボクを一生閉じ込めるための呪いでしかなかったんだ。
「……あんなに、好きだったのにな」
好きだったからこそ、許せない。愛していたからこそ、その愛が「数式」という名の暴力だったことに耐えられない。ボクの純粋さを踏みにじった代償を、先生にはその完璧な人生という対価で支払ってもらう。
スマホの画面から放たれる青白い光が、ボクの瞳を焼き、脳を麻痺させていく。
投稿文には、先生が無理やり買い与えたスマホのこと、深夜の監視、母を丸め込んで連れ出そうとしていること、そして何より、あの完璧な仮面の裏にある執着を、赤裸々に綴っていった。
(先生、見てる? ボクはもう、先生の数式の一部じゃない)
指先が熱い。心臓の鼓動が、これまでにないほど激しく打ち鳴らされる。
この投稿が拡散されれば、先生の築き上げた「完璧な人生」という数式は大崩壊を起こすだろう。先生の薬指の指輪も、その清潔なスーツも、白々しい眼鏡も、すべてが汚泥の中に沈むのだ。
「……あはっ」
暗い部屋で、ボクは一人で笑った。
それは、先生に褒められた時に浮かべていた愛らしい微笑みではない。自分を檻に閉じ込めた主人の喉元を、奈落の底から食い千切ろうとする、獣の笑いだった。
最後に「投稿」のボタンを、全力で押し込んだ。
投稿ボタンを押し込んだ指先が、ジリジリと熱い。
数秒後、暗闇の中でスマホが短く、けれど絶え間なく震え始めた。
『100RT』『500RT』……。
画面の端で数字が爆発的に膨れ上がっていく。それは、先生の人生という緻密な城壁が、目に見えない無数の群衆によって解体されていく音だった。
ボクの心臓は、これまでにない速さで警鐘を鳴らしている。喉がカラカラに乾き、胃の奥が熱い。これは恐怖じゃない。ボクを閉じ込めていた巨大な神様を、自分の指先一つで引きずり下ろしたことへの、極限の昂揚感だ。
ボクは震える指でSNSのアプリを開き、新しいアカウントを作成した。
先生から与えられたこのスマホ。先生とボクだけの秘密のパイプ。
それを使って、先生が最も恐れる方法で、彼をボクの世界から排除してやるんだ。
『隠しているものを、すべて部屋で見せろ』
あの時、先生の瞳の奥に宿っていたのは、教師の熱意などではなく、ただの「飢え」だった。ボクのすべてを暴き、自分の所有物としてラベルを貼りたいという、醜い男の欲望。
ボクはその不快感を、そのままSNSのタイトルへと叩きつけた。
「【拡散希望】担任の先生に『部屋見せろ』って追い詰められました。助けてください」
投稿ボタンを押し込む直前、ふと、視界が滲んだ。
ボクは、初めて先生に頭を撫でられた時の手のひらの温度を思い出そうとした。あの時は、それが世界で一番優しい魔法だと思っていた。準備室の西日に照らされて、先生が少しだけ笑ったような気がした、あの夏の日。
けれど、今その記憶をなぞれば、思い出の中の先生の手は死人のように白く、指先からは腐ったコーヒーの臭いが漂ってくる。あの魔法は、ボクを一生閉じ込めるための呪いでしかなかったんだ。
「……あんなに、好きだったのにな」
好きだったからこそ、許せない。愛していたからこそ、その愛が「数式」という名の暴力だったことに耐えられない。ボクの純粋さを踏みにじった代償を、先生にはその完璧な人生という対価で支払ってもらう。
スマホの画面から放たれる青白い光が、ボクの瞳を焼き、脳を麻痺させていく。
投稿文には、先生が無理やり買い与えたスマホのこと、深夜の監視、母を丸め込んで連れ出そうとしていること、そして何より、あの完璧な仮面の裏にある執着を、赤裸々に綴っていった。
(先生、見てる? ボクはもう、先生の数式の一部じゃない)
指先が熱い。心臓の鼓動が、これまでにないほど激しく打ち鳴らされる。
この投稿が拡散されれば、先生の築き上げた「完璧な人生」という数式は大崩壊を起こすだろう。先生の薬指の指輪も、その清潔なスーツも、白々しい眼鏡も、すべてが汚泥の中に沈むのだ。
「……あはっ」
暗い部屋で、ボクは一人で笑った。
それは、先生に褒められた時に浮かべていた愛らしい微笑みではない。自分を檻に閉じ込めた主人の喉元を、奈落の底から食い千切ろうとする、獣の笑いだった。
最後に「投稿」のボタンを、全力で押し込んだ。
投稿ボタンを押し込んだ指先が、ジリジリと熱い。
数秒後、暗闇の中でスマホが短く、けれど絶え間なく震え始めた。
『100RT』『500RT』……。
画面の端で数字が爆発的に膨れ上がっていく。それは、先生の人生という緻密な城壁が、目に見えない無数の群衆によって解体されていく音だった。
ボクの心臓は、これまでにない速さで警鐘を鳴らしている。喉がカラカラに乾き、胃の奥が熱い。これは恐怖じゃない。ボクを閉じ込めていた巨大な神様を、自分の指先一つで引きずり下ろしたことへの、極限の昂揚感だ。
