先生が去り、玄関の扉が閉まる音がした瞬間、家の中の空気が一変した。
階段を駆け上がってきた母が、ボクの部屋のドアを乱暴に蹴開ける。
「あんた、さっき先生になんて言ったのよ!」
そこには、先生の前で見せていた「女」の仮面はなかった。疲れ果て、ヒステリックに歪んだ、いつもの醜い母の顔があった。塗りすぎた口紅が、怒りで震える唇の端で滲んでいる。
「先生が部屋を出る時、あんなに怖い顔をさせて……! あんなに素敵で、あんたのことを考えてくれる立派な人を怒らせるなんて、どれだけ親不孝すれば気が済むの!」
母はボクの肩を掴み、力任せに揺さぶった。
母が怒っているのは、ボクの将来のためでも、ボクの体調のためでもない。自分の「お気に入り」である清水先生との、安っぽい接点が失われるかもしれない。その恐怖が彼女を狂わせているのだ。
「明日からは、先生に全部お任せするからね。嫌だなんて言わせないわよ。あんたがまともにならないと、私の人生だってぐちゃぐちゃなんだから!」
しがみつくような母の叫び。その指先からは、染み付いた生活の臭いと、焦燥が混じった不快な熱が伝わってくる。
ボクは返事もしなかった。ただ、母の目尻に溜まった脂ぎった涙が、どうしようもなく汚らわしいものに見えて、視線を床に落とすしかなかった。
母が部屋を出た後も、彼女の使っている安っぽい香水の匂いが鼻についた。
「あんたのために先生は……!」と叫んでいた母の瞳。あの中にボクの姿は映っていなかった。彼女が見ていたのは、ボクという鏡に反射した「清水先生」という理想の男だけだ。
ボクは、母の脱ぎ捨てたスリッパが廊下に転がっているのを、冷めた目で見つめる。
この家も、学校も、ボクにとっては巨大なゴミ捨て場でしかない。先生は、そのゴミ捨て場の中で唯一「光」を放つ存在だった。……だからこそ、その光が偽物だと分かった今、ボクの手で完全に消し去らなければならないんだ。
階段を駆け上がってきた母が、ボクの部屋のドアを乱暴に蹴開ける。
「あんた、さっき先生になんて言ったのよ!」
そこには、先生の前で見せていた「女」の仮面はなかった。疲れ果て、ヒステリックに歪んだ、いつもの醜い母の顔があった。塗りすぎた口紅が、怒りで震える唇の端で滲んでいる。
「先生が部屋を出る時、あんなに怖い顔をさせて……! あんなに素敵で、あんたのことを考えてくれる立派な人を怒らせるなんて、どれだけ親不孝すれば気が済むの!」
母はボクの肩を掴み、力任せに揺さぶった。
母が怒っているのは、ボクの将来のためでも、ボクの体調のためでもない。自分の「お気に入り」である清水先生との、安っぽい接点が失われるかもしれない。その恐怖が彼女を狂わせているのだ。
「明日からは、先生に全部お任せするからね。嫌だなんて言わせないわよ。あんたがまともにならないと、私の人生だってぐちゃぐちゃなんだから!」
しがみつくような母の叫び。その指先からは、染み付いた生活の臭いと、焦燥が混じった不快な熱が伝わってくる。
ボクは返事もしなかった。ただ、母の目尻に溜まった脂ぎった涙が、どうしようもなく汚らわしいものに見えて、視線を床に落とすしかなかった。
母が部屋を出た後も、彼女の使っている安っぽい香水の匂いが鼻についた。
「あんたのために先生は……!」と叫んでいた母の瞳。あの中にボクの姿は映っていなかった。彼女が見ていたのは、ボクという鏡に反射した「清水先生」という理想の男だけだ。
ボクは、母の脱ぎ捨てたスリッパが廊下に転がっているのを、冷めた目で見つめる。
この家も、学校も、ボクにとっては巨大なゴミ捨て場でしかない。先生は、そのゴミ捨て場の中で唯一「光」を放つ存在だった。……だからこそ、その光が偽物だと分かった今、ボクの手で完全に消し去らなければならないんだ。
