ふと、視界に「一年四組」の看板が映った。
スライド式のドアの上。ここが、ぼくの一年間を過ごす場所になる。
『ここだね。黒板に座席表があるから、確認して準備ができたら座って』
不意に、先生の声のトーンが変わった。
敬語が外れたその瞬間、耳の奥を直接撫でられたような錯覚に陥る。ぼくを「生徒」として、枠組みの中に入れてくれた証拠だ。
その響きの温かさに、胸の奥がくすぐったくなる。
清水先生は次の生徒を案内するため、再び昇降口へと戻っていった。
一人で教室に入り、指示通りに座席表を確認する。
ぼくの席は、教室のちょうど中央付近だった。
「うわ、ど真ん中か……」
思わず独り言が漏れる。
落ち着かない場所だ。けれど、すぐに思い直した。
ここなら、授業中の先生を正面からじっくり観察できる。
(……悪くないかも)
誰にも気づかれないように、心の中で小さくガッツポーズをした。
自席に向かおうとすると、体温の低いぼくの耳には、周囲の喧騒が毒のように刺さる。
「あの、友達になりませんか……?」
「え! なりましょなりましょ!」
「早瀬、俺さ、ベルトの調整ミスってんだけど。助けてくんね?」
「え、見て! スクバで来ちゃった!」
「てかさ、担任当たりじゃね? ちょーイケメン!」
これが、一年四組の現実だ。
窓際では、春の日差しに当てられて、初日から腕を枕に眠る奴がいる。
不慣れな制服のベルトに手こずり、必死に隣に助けを求める男子もいる。焦ってかいた汗が、糊の効いていないシャツの襟を汚していた。
廊下側では、新品のバッグにジャラジャラとぬいぐるみを付け、女子たちが互いの承認欲求を満たし合っていた。
安っぽい、あまりにありふれた光景だ。だらしない。醜い。
こんな奴らと一年間を共にするのか。
ぼくは長い前髪の隙間から、一人ひとりを冷たく射抜くように見つめる。
期待と嫌悪が混ざった吐息をつきながら、ぼくは自席へ深く腰を下ろした。
スライド式のドアの上。ここが、ぼくの一年間を過ごす場所になる。
『ここだね。黒板に座席表があるから、確認して準備ができたら座って』
不意に、先生の声のトーンが変わった。
敬語が外れたその瞬間、耳の奥を直接撫でられたような錯覚に陥る。ぼくを「生徒」として、枠組みの中に入れてくれた証拠だ。
その響きの温かさに、胸の奥がくすぐったくなる。
清水先生は次の生徒を案内するため、再び昇降口へと戻っていった。
一人で教室に入り、指示通りに座席表を確認する。
ぼくの席は、教室のちょうど中央付近だった。
「うわ、ど真ん中か……」
思わず独り言が漏れる。
落ち着かない場所だ。けれど、すぐに思い直した。
ここなら、授業中の先生を正面からじっくり観察できる。
(……悪くないかも)
誰にも気づかれないように、心の中で小さくガッツポーズをした。
自席に向かおうとすると、体温の低いぼくの耳には、周囲の喧騒が毒のように刺さる。
「あの、友達になりませんか……?」
「え! なりましょなりましょ!」
「早瀬、俺さ、ベルトの調整ミスってんだけど。助けてくんね?」
「え、見て! スクバで来ちゃった!」
「てかさ、担任当たりじゃね? ちょーイケメン!」
これが、一年四組の現実だ。
窓際では、春の日差しに当てられて、初日から腕を枕に眠る奴がいる。
不慣れな制服のベルトに手こずり、必死に隣に助けを求める男子もいる。焦ってかいた汗が、糊の効いていないシャツの襟を汚していた。
廊下側では、新品のバッグにジャラジャラとぬいぐるみを付け、女子たちが互いの承認欲求を満たし合っていた。
安っぽい、あまりにありふれた光景だ。だらしない。醜い。
こんな奴らと一年間を共にするのか。
ぼくは長い前髪の隙間から、一人ひとりを冷たく射抜くように見つめる。
期待と嫌悪が混ざった吐息をつきながら、ぼくは自席へ深く腰を下ろした。
