穢れの軍神と縁の花嫁

 がたん、と大きく身体が揺れた衝撃で、みづきはハッと意識を取り戻した。
 瞼を開けると馬車の中だった。

 そうだ。羽倉の町にあやかしが現れて――軍神と呼ばれる五百森朔哉に助けられたのだ。
 そのまま馬車へ乗せてもらったところまでは覚えている。けれど、動き出してすぐに押し寄せた疲労に抗えず、眠ってしまったらしい。あれからどれくらい時間が経ったのだろう。

 「起きたのか」

 耳元に響いた、低く穏やかな声。そのあまりの近さに息が止まるかと思った。

 (私、この人にもたれかかって寝てた……!?)

 飛び起きるようにして隣を見ると、目元を和らげた朔哉がいた。

 「ご、ごめんなさい! 私いつの間にっ、しかも寄りかかって、しかも寝るなんて……っ!」

 しかもよく見れば、朔哉のものと思われる外套(がいとう)がみづきの体に掛けられていた。絶対に高価なものであることが、その上質で滑らかな手触りだけでわかる。今の自分は全身泥まみれだ。もし汚していたらとても弁償なんてできそうにない。

 寝起きの頭が混乱するみづきをよそに、朔哉は不思議なものを見るような目で、じっとこちらを見つめていた。

 「……君の方こそ、本当になんともないんだな」
 「え……?」

 なんともない、とはどういう意味だろう。首を傾げるみづきに、朔哉は小さく首を振った。

 「いやなんでもない……それより、ちょうど帝都に入ったところだ。もう少しかかるからまだ眠っていても大丈夫だよ」
 「い、いえ! しっかり目が覚めましたので……!」

 背筋をピンと伸ばして、赤くなった顔を隠すように窓の外を見る。

 (あ……綺麗……)

 大きなレンガ造りの建物と、夜を照らすガス灯の明かりが花々のように街を彩っている。
 生まれてからずっと故郷の村で過ごし、流民となってからは隠れるように転々としてきたみづきにとって、帝都の夜景は、まるでおとぎ話の世界のようだった。

 しばらくして馬車の速度がゆっくりと落ち、やがて止まった。
 朔哉に促されて馬車を降りると、みづきの前には見上げるほど高い石造りの門がある。

 「ようこそ、五百森家へ」

 重厚な門扉をくぐり、石畳をたどって玄関へ向かう。今は夜で屋敷の全貌はよく見えないけれど、かなり広い敷地のようだ。

 「あの……本当に、私なんかがお邪魔していいんでしょうか……?」
 「もちろん。行くところがなかったんだろう?君の身の安全は俺が保証する」