穢れの軍神と縁の花嫁

 「名前は?」
 「……花菱、みづきです」
 「じゃあみづき、行こうか」

 朔哉ははっきりとそう告げると、みづきを確かな手つきで抱き上げた。

 「!?あ、あの……っ!」

 男の人の腕にこんな風に抱き上げられたことなんてない。突然のことに戸惑いながらも、みづきは本能的に朔哉の胸元を掴んだ。軍服越しに、朔哉の確かな鼓動と体温が伝わってくる。
 朔哉はみづきをしっかりと腕に抱いたまま、遠巻きにこちらを好奇の目で見つめている人々へ静かに視線を向ける。

 「この娘は、討伐軍第一部隊少佐――五百森朔哉が貰い受ける。異論がある者は今この場で前へ出るといい」

 それは、みづきを自分の庇護下に置くという宣言だった。

 騒然とする人々を残して、朔哉はゆっくりと歩き出した。その最中、朔哉は腕の中で小さく身を縮めているみづきへと、そっと視線を落とす。 周囲に向けていた氷のような鋭さは鳴りをひそめ、その漆黒の瞳には温かい光が灯っている。

 「君は化け物じゃない。そのことを、俺が証明するよ」

 腕の中で守られている恥ずかしさと安堵と――それ以上に込み上げてくる切なさで胸がいっぱいになった。
 半年間、誰からも触れられることも、感じることもなかった、人の温かさ。

 みづきは自分の涙を隠すように、朔哉の胸にそっと顔を埋めた。