穢れの軍神と縁の花嫁

 静まり返った中で、兵士たちは武器を下ろし、光の中にいるみづきと朔哉を見つめている。

 「何をしている!その娘を拘束しろ!五百森少佐もだ!」

 けれど、兵士たちは誰ひとり動かなかった。
 黒く枯れた草木は緑を取り戻し、濁っていた池には澄んだ水が満ちている。あやかしへ堕ちたとされた朔哉も、みづきの腕の中で人の姿へ戻っていた。
 目の前で起きたことを見れば、もはや鷲宮の言葉を信じる者はいなかった。

 「久我少尉何をしている!早く五百森少佐を討て!」

 暁斗は抜き身の軍刀を手にしたまま、朔哉を見つめた。

 「……朔哉は、あやかしじゃねえだろ」

 暁斗は低く呟くと、突然身を翻した。
 軍刀の柄が、鷲宮の背後に控えていた術師の手首を打つ。術師が握っていた黒い符が地面へ落ちた。続けざまに腕を捻り上げ、その身体を石畳へ押さえ込む。

 「静馬、こいつが術師だ」

 静馬が符を放つと、淡い光の縄が術師の両腕へ絡みつきその動きを完全に封じた。

 「この男が、瘴気増幅術を仕掛けていたのですね」

 静馬は地面に残る黒い符の燃え滓を指し示した。

 「あれは通常のあやかし化ではありませんでした。外部から瘴気を増幅し、人為的に進行を促したものです。術師の間でも禁術とされているものです」

 兵士たちの間に、動揺が走った。
 鷲宮中将自ら禁術の発動を命じた場面を、この場にいる全員が見ていたのだから。

 「禁術の使用は、明確な軍規違反です、鷲宮中将」

 朔哉が、みづきに支えられながら掠れた声で告げた。

 「黙れ! 化け物の言葉を信じるな!」
 だが、もう彼の命令に従う者はいなかった。暁斗が術師を静馬へ任せ、鷲宮の前へ立った。

 「鷲宮中将。あんたを禁術使用および違法な討伐命令の疑いで、身柄を拘束する」
 「少尉ごときが、この私を――」

 「俺だけじゃねえよ」

 暁斗は、周囲の兵士たちを見渡した。

 ひとりの兵士が銃を下ろす。
 またひとり、朔哉へ向けていた刀を鞘へ戻した。

 やがて第一部隊の兵士たちは鷲宮を取り囲み、その両腕を拘束した。