****
意識の底で、愛おしい声を聞いた。
遠いのか近いのか、分からない。ただ、聞き覚えのある、懐かしい声だと思った。
――みづき。
名前が、意識の中で形を結ぶ。
夕食までには追いつくよ、と自分がそう言ったことを思い出した。
(まだ、約束を果たしていない……)
朔哉は目を開くと、赤く滲んだ視界の中にみづきが立っていた。瘴気に晒されて顔が青ざめている。それでも、逃げない。真っ直ぐに、こちらを見ている。
朔哉は目を開くと、赤く滲んだ視界の中にみづきが立っていた。
瘴気に晒され、顔が青ざめている。細い身体は風に煽られ、今にも倒れそうだった。
それでもまっすぐに、こちらを見ている。
ぶわりと噴き上がっていた瘴気が、わずかに勢いを失った。
「来るな……」
朔哉は声を絞り出す。
来てほしい。触れてほしい。
それでも、自分が彼女を傷つけるくらいなら、今すぐ逃げてほしい。
相反する願いが胸の中で引き裂き合う中で、朔哉は震える左腕を、ゆっくりと前へ伸ばした。
朔哉は震える左腕を、ゆっくりと前へ伸ばした。
異形の指が、みづきの方へ向かう。爪ではない。手のひらを、上へ向けて。
祭りの日、人混みの中で包んだ手。
あの温もりを求めるように、朔哉は手を届かせようとした。
みづきが息をのむのがわかった。それでも、彼女は迷わずに手を伸ばしてくる。
指先が、触れそうになった――その瞬間。
「まだ理性が残っているか」
鷲宮の声が、ふたりの間へ割り込んだ。
鷲宮が合図を送ると、背後に控えていた兵士が懐から取り出し黒い符を、鷲宮へ差し出した。
「やめろ……っ」
掠れて、声はほとんど出なかった。
鷲宮は符を宙へ放り投げると、腰の軍刀を引き抜いた。
刃が、空中の符を一閃する。
黒紫の光が弾けた。
地面を這う術式が、先ほどとは比べものにならない速さで広がっていく。
「うあああ―――っ!」
朔哉の絶叫が、曇天の空を揺らした。
意識の底で、愛おしい声を聞いた。
遠いのか近いのか、分からない。ただ、聞き覚えのある、懐かしい声だと思った。
――みづき。
名前が、意識の中で形を結ぶ。
夕食までには追いつくよ、と自分がそう言ったことを思い出した。
(まだ、約束を果たしていない……)
朔哉は目を開くと、赤く滲んだ視界の中にみづきが立っていた。瘴気に晒されて顔が青ざめている。それでも、逃げない。真っ直ぐに、こちらを見ている。
朔哉は目を開くと、赤く滲んだ視界の中にみづきが立っていた。
瘴気に晒され、顔が青ざめている。細い身体は風に煽られ、今にも倒れそうだった。
それでもまっすぐに、こちらを見ている。
ぶわりと噴き上がっていた瘴気が、わずかに勢いを失った。
「来るな……」
朔哉は声を絞り出す。
来てほしい。触れてほしい。
それでも、自分が彼女を傷つけるくらいなら、今すぐ逃げてほしい。
相反する願いが胸の中で引き裂き合う中で、朔哉は震える左腕を、ゆっくりと前へ伸ばした。
朔哉は震える左腕を、ゆっくりと前へ伸ばした。
異形の指が、みづきの方へ向かう。爪ではない。手のひらを、上へ向けて。
祭りの日、人混みの中で包んだ手。
あの温もりを求めるように、朔哉は手を届かせようとした。
みづきが息をのむのがわかった。それでも、彼女は迷わずに手を伸ばしてくる。
指先が、触れそうになった――その瞬間。
「まだ理性が残っているか」
鷲宮の声が、ふたりの間へ割り込んだ。
鷲宮が合図を送ると、背後に控えていた兵士が懐から取り出し黒い符を、鷲宮へ差し出した。
「やめろ……っ」
掠れて、声はほとんど出なかった。
鷲宮は符を宙へ放り投げると、腰の軍刀を引き抜いた。
刃が、空中の符を一閃する。
黒紫の光が弾けた。
地面を這う術式が、先ほどとは比べものにならない速さで広がっていく。
「うあああ―――っ!」
朔哉の絶叫が、曇天の空を揺らした。

