穢れの軍神と縁の花嫁

 朔哉は右手を地面へつき、必死に理性へしがみついていた。

「見ろ! あれが軍神と呼ばれた男の正体だ!」

 鷲宮の声が響く。
 朔哉は顔を上げようとするが、身体がまったく言うことを聞かない。

 今、自分の身体がどう変わっていっているのかさえ、もうわからなかった。
 目の前の兵士が、一歩後退する。
 その恐怖に歪んだ表情が、朔哉の心を抉った。

 喰らえ――身体の奥に巣食う何かが、そう命じている。

「違う……」

 朔哉は歯を食いしばった。

「俺は……」

 誰も傷つけない。
 この場所を、みづきを守る。

 ――みづき。

 その名を思った瞬間、わずかに意識が戻った。
 今頃は、もう森の奥へ逃げられているだろうか。羅刹がついている。静馬も、きっと異変を察して動いているはずだ。
 ならば、大丈夫だ。
 自分さえ、ここで抑えればいい。

 自分が人でなくなる前に、すべてを終わらせればいい。

 だが、もし今、みづきが目の前に現れたら、この爪が彼女の体を引き裂くのだろうか。
 この牙が、細い喉へ食らいつくのだろうか。

「……っ」

 その想像だけで、薄れかけた理性が激しく抗った。

 それだけは、絶対にさせない。
 たとえ、この場で自分の体が壊れたとしても、みづきだけは、傷つけない。

 朔哉は震える身体で、立ち上がろうとした。