穢れの軍神と縁の花嫁

 五百森家の正門前には、討伐第一部隊の兵士たちが整列していた。

 抜き身の軍刀と、構えられた銃。
 朔哉が率いて幾度も命を預けてきた部下たちの武器が、今は自分の屋敷へ向けられている。

 朔哉は門の前にひとりで立ち、その中心にいる男を見据えた。

「私の部隊を率いて、何をするおつもりですか」
「何を言っている。これはもお前の部隊ではない」

 鷲宮玄一郎は、冷たく答えた。

「五百森朔哉少佐。本日付で、お前は討伐第一部隊隊長を解任された」
「……理由を伺っても?」
「聞かずともわかるだろう」

 鷲宮の視線が、屋敷の奥へ向く。

「討伐者でありながら、複数のあやかしを屋敷に匿った。あやかし憑きと噂される娘を軍へ引き渡さず、私的に保護している。さらに、お前自身もすでに人ならざるものへ堕ちつつある」

 鷲宮の目が、包帯に覆われた左腕へ落ちる。

「参謀本部の緊急討伐命令だ。この件おいては私に全権が委任されている。五百森家に潜むあやかし、災いを呼ぶ娘、そして五百森朔哉。すべてを討伐対象とする」

 こんなめちゃくちゃな行為が、軍部の正式な手続きを踏んでいるとは思えない。おそらく、鷲宮中将を中心とした参謀本部の独断専行であることは明らかだった。

 兵士たちに動揺が走った。拘束ではなく、討伐。
 その言葉の意味を理解している者ほど、顔色を変えているのだ。

「第一部隊の者たちへ告げる」

 朔哉は、周囲の兵士たちへ向けてよく通る声で言った。

「この命令には正当な手続きがない。武器を下ろせ。俺はお前たちへ刃を向けたくない」
「惑わされるな!」

 鷲宮が鋭く声を上げた。

「そこにいる男は、いつあやかしへ変じるかわからぬ化け物だ!久我少尉、前へ!」

 朔哉は、目を見開いた。
 見慣れた短髪と、大柄な体にまとう軍服姿。 れど、いつもの人好きのする軽い笑みはない。その目には、何かを懸命に押し殺しているような、複雑な色があった。

「……暁斗」

 幾度も背中を預け、命を預け合ってきた男が、敵の側に立っている。

「お前はそっち側についたのか」
「命令だからだ」

 暁斗の拳が、わずかに握られる。その声は硬く視線も逸らさない。

「俺は軍人だ。上官の命令に従う」

 それ以上、問い詰めることはできなかった。長く共に戦ってきたからこそわかる。今の暁斗は普段とは違う。
 ただそれを確かめるための時間は、朔弥に残されていなかった。