穢れの軍神と縁の花嫁

 「……あ、あの、」
 「――朔哉!」

 その時、広場の奥から軍服姿の二人の男性が駆けつけてきた。

 「暁斗(あきと)、どんな状況だ」
 「山から次々と下りて来やがる。キリがねえな、なんだあのあやかしは」

 暁斗と呼ばれた短髪の男が、忌々しそうに山へ目を向ける。その言葉通り、山の裂け目からは灰色の影が途切れることなく次々と湧き出し、山肌を駆け下りてきていた。

 「あれは瘴狼(しょうろう)です。五年前に東方で出現した記録がありました。一個体でも厄介ですが、この数では……」

 駆けつけたもうひとり、眼鏡をかけた男の言葉に朔哉は頷いた。

 「ふたりは住民たちの避難を最優先にしてくれ」
 「朔哉は?」
 「ここで食い止める。あいつらを完全に討伐できるのは俺だけだ」

 ふたりはすぐに部隊を率いて逃げ惑う住民たちの避難へと動き出した。そうしている間にも、山から下りてきた瘴狼の群れが次々と町の中になだれこんでくる。みづきは自分も動かなければと思うけれど力が入らない。

 (このままじゃ終わりが見えない……)

 朔哉は避難路を確保するために、次々と瘴狼を斬っていく。が、倒しても倒してもすぐに新たな個体が湧き出てきて、統率が取れた群れのように襲いかかってくる。

 その時、軍刀を振るい続ける朔哉に異変が起きた。
 それまで鋭くあやかしを睨み据えていた彼の動きが、ぴたりと止まっていた。軍刀を握る左手が、わずかに震えている。その左腕――軍服の袖から覗く包帯が巻かれた腕から、黒い(もや)がゆらりと立ち昇っているのが見えた。

 「うっ……く……!」

 朔哉が苦しげに顔を歪め、左腕を押さえながら膝を折る。その拍子に軍刀が音を立てて地面に転がった。

 あれは間違いなくあやかしの瘴気だ。
 けれど、どうして最強の討伐者であるはずの彼の体から?