穢れの軍神と縁の花嫁

 真ん中にリツ、右側にみづき、そして左側に朔哉。
 すっかり明かりの落ちた薄暗い部屋の中、みづきは天井の一点を見つめたまま、完全に固まっていた。

 (……やっぱり、全然、眠れない……!)

 さっきまであんなに騒いでいたリツは、布団に入った瞬間すぐに眠ってしまった。みづきの左手を、小さな両手でぎゅっと握りしめたままで。
 リツの体温が温かくて愛おしいけれど、問題は、そのリツを挟んだ向こう側だ。静まり返った部屋の中で、朔哉の存在感が嫌でも伝わってくる。落ち着かなくて、みづきは寝返りを打つこともできないまま、ただ天井だけを見つめる。

 「……起きている?」

 その声に、みづきは顔だけ動かすと、朔哉もまたみづきと同じように、天井を見つめている。

 「はい……起きています」
 「やっぱり、落ち着かないよね。すまない、リツのわがままに付きあわせてしまって」
 「いえ大丈夫です。朔哉さんは眠くありませんか?」
 「うん。俺も少し、目が冴えてしまってね」

 二人の声だけが、月明かりに照らされた部屋の中に溶けていく。

 「今日のお祭りは、どうだった?」
 「すごく楽しかったです。あんなに賑やかなお祭りは、初めてでした」
 「なにが一番、楽しかった?」

 今日見た景色が頭の中に浮かんでくる。色とりどりの提灯、屋台の灯り、人々の笑い声。リツが目を輝かせて駆け回っていたこと。紗世が静馬の隣で嬉しそうに笑っていたこと。人混みの中で、大きな手に包まれたこと。

 「そうですね……全部楽しかったんですけど、やっぱり皆さんと一緒に行けたこと、ですかね」

 みづきがそう言うと、朔哉の視線がこちらへ向いた気がした。暗くてよく見えないけれど。

 「俺も楽しかった。こんなに楽しかったのは、久しぶりかもしれない」
 「ふふ、本当ですか?」
 「うん。君が隣にいたからかもしれないな」

(……えっ、)

 衣服が擦れる微かな音がして、朔哉がこちらを向いた気配がした。引き寄せられるようにして、みづきもそっと横を向くと、リツを挟んだ向こうで朔哉がこちらを見ていた。

 暗闇でよかった。きっと今、とても変な顔をしている。
 どう返事をしたらいいのか分からない。
 
 「もう遅いな。そろそろ寝た方がいい」
 「……はい、おやすみなさい」
 「おやすみ」

 目を閉じると、瞼の裏には今日見た景色が浮かんだ。
 提灯の灯りと人々の笑顔、繋がれた手。

 ――君が隣にいたからかもしれないな

 胸の奥で、その言葉が何度も繰り返される。

 どうしてこんなに嬉しいのだろう。考えようとしたけれど、祭りではしゃぎ疲れた身体は正直だった。
 温かな眠気がゆっくりと意識を包み込んでいって、みづきは深い眠りへ落ちていった。