穢れの軍神と縁の花嫁

 みづきにとっても初めての帝都の祭りは、忘れられないものになった。
 祭りが終わる時間ぎりぎりまで楽しんで、五百森の屋敷に帰ってきた時はすっかり夜も遅くなっていた。

 夕食と入浴を済ませたあと、みづきは書斎を訪れる。

 「入ってもいいですか?」
 「ああ、どうぞ」

 長椅子に座っている朔哉が、包帯を解いている。みづきは救急箱から新しい包帯を取ってから、朔哉の隣に腰を下ろした。

 「こんな時間にすまない。祭りに行く前は慌ただしくてできなかったから」
 「大丈夫です。じゃあ替えますね」

 この書斎で異形の左腕を見せてもらって以来、こうして新しい包帯に替えるのがみづきの役目になった。みづきだけが知っている、朔哉の秘密。
  包帯の下から現れた異形の左腕にも、もう怯えることはなかった。黒い鱗に覆われていても、触れればそこには確かな朔哉の温もりがある。そのことを、みづきはもう知っている。

 「いつ見ても上手いものだね」
 「本当ですか?」
 「ああ。自分でやると、見るに堪えないくらいひどい」

 苦笑する朔哉に、そんなことないですよと答えつつも、ささやかなことでも、朔哉の役に立てることは嬉しい。

 「いつでも言ってください、お手伝いしますから」

 そう言いつつも、今日は少しだけ落ち着かなかった。

 集中していないと、すぐに祭りでのことを思い出してしまう。
 人混みの中で手を取られたこと。肩が触れそうなほど近かった距離。思い出しただけで顔が熱くなる。

 「どうかした?」
 「い、いえっ、はい終わりました!」

 俯きながら、急いで結び目を綺麗に整える。その時どたどたどたっ、と走る音と「わはは!」という無邪気な笑い声が聞こえてきた。

 「……リツだな」

 朔哉がやれやれと困ったように眉をひそめ、羽織の袖を下ろしながら立ち上がった。