穢れの軍神と縁の花嫁

 「これがやりたかったのか?」
 「え!?えっと、その……」

 不思議そうに問いかけられて、みづきは視線が思いっきり泳ぐ。
 どうしよう。紗世たちをふたりにしたかっただけで、それ以上のことをなにも考えていなかった。あれこれと言い訳を考えている間に、朔哉は店主から銃を受け取っていた。

 「せっかくだ、ひとつくらい持って帰ろう。どれがほしい?」
 「え……?あの狐の根付が可愛いです……けど」
 「あれだね、わかった」

 朔哉は片手で銃を構え、ほとんど狙いを定める間もなく引き金を引いた。
 小気味よい音と共に放たれた弾は、見事にお目当ての景品に当たって、ころんと棚から落ちた。

 「お兄さん上手いねえ!」
 「どうも」

 店主から景品を受け取った朔哉が、それをみづきに手渡してくれる。
 鈴が付いた、かわいい狐の根付だ。

 「あ、ありがとうございます……!急にすみませんでした」
 「全然いいよ。急に引っ張られて驚いたけど」
 「その、紗世ちゃんたちがいい雰囲気だったので、少しふたりきりにしてあげたくて……」

 それを聞いた朔哉は、腑に落ちたとでも言うように楽しそうに笑い始める。

 「なるほど……君がそういう事情には疎いかと思っていた」
 「私だって、それくらいのことはわかりますっ」
 「それはすまなかった」

 その表情が少し意地悪に見えて、みづきはますます拗ねた。どこか子ども扱いされているような気がして悔しい。

 「じゃあ、他のことも分かるのか?」

 朔哉の笑い声がふっと止まって、みづきは顔を上げる。

 「他のことですか?」

 きょとんとしていると、ふいに空いていた右手を取られる。そして、朔哉の大きな手が逃がさないようにしっかりと包み込んだ。

 「っ、」

 触れ合う手のひらから朔哉の体温が伝わってくる。

 「さ、朔哉、さん……っ?」
 「だいぶ人が増えてきたからね。はぐれるといけないから、このままでいよう」

 朔哉は何食わぬ顔でそう言って前を向いた。

 (これじゃあ、私の心臓の音が朔哉さんに伝わっちゃう……)

 恥ずかしさでどうにかなりそうで、自由な左手でもらったばかりの狐の根付をぎゅっと握りしめる。
 リン、と小さく鳴った鈴の音が、自分の胸の高鳴りと重なった気がした。
 どうしてこんなに落ち着かないのだろう。祭りの熱気のせいなのか、それとも――

 「みづき」

 名前を呼ばれて、ぐい、と強く腕を引かれる。
 直後にすぐ横を、数人の子どもたちが歓声を上げながら駆け抜けていった。

 「前を見ていないと危ないよ」
 「……あ、はい……」

 気付けば肩と肩が触れ合うくらいに距離が近い。自分を人混みから庇うように立つ朔哉の、広い肩と凛とした横顔ばかりに目がいってしまう。
 顔から火が出るどころか、絶対に今、自分はリンゴ飴よりも真っ赤な顔をしているはずだ。

 「手、繋いでいてよかっただろう?」
 「っ――、」

 からかうような、けれどどこか優しく響いたその声にそれ以上は何も言えなかった。
 だって、前なんて見られない。
 隣にいる人のことで、こんなにも頭の中がいっぱいなのだから。

 今頃、紗世たちはどうしているだろう。暁斗とリツも。
 早く合流しないとと思いつつ、あと少しだけこのままがいい、そんな気持ちでいっぱいだった。