穢れの軍神と縁の花嫁

 それから一時間ほどして、五百森家の居間へ暁斗と静馬がやってきた。

 「静馬!」

 勢いよく駆け寄ったかと思えば、その後ろにいる暁斗を見て途端に眉をひそめる。

 「げっ!なんで暁斗もいるのさー」
 「なんだ坊主、相変わらず生意気だなぁ」

 そう言うなり暁斗は大きな手でリツの頭をわしゃわしゃと掻き回す。

 「やめろー!髪がぐちゃぐちゃになる!」
 「元からぐちゃぐちゃだろ」
 「なんだとぉ!」

 必死に抵抗するリツを見ながら、みづきは思わず目を丸くした。

 「おふたりとも、リツくんと仲がいいんですね」
 「ええ。二年前に少佐が彼を保護した時、我々も同行していましたから」
 「まあ、懐かれてるかは微妙なとこだけど」
 「なついてない!」

 それからみづきたちは『リツをお祭りに連れていくにはどうすればいいか』という話題に入った。事情を聞き終えた静馬は、しばらく考え込むように眼鏡の奥の目を伏せる。

 「そうですね……変化が解けないよう術をかけることは可能です。効果はそれほど長くはありませんが、祭りの間だけなら十分でしょう。ただ、少々訓練が必要になります」
 「ほんと!?」

 リツの耳がぴくりと動く。

 「ええ。それから当日は誤識の符を持ってもらいます。周囲の認識を曖昧にすることができるので、多少の違和感を覚えても深く追及されにくくなります」

 説明を聞き終えた朔哉は、顎へ手を当てたままリツを見る。

 「じゃあ条件だ、リツ。祭りの日まで毎日、興奮しても変化が解けないよう練習すること。それができたら、お祭りに連れていってあげるよ」
 「やったあーーーっ!!」

 リツは大喜びでその場でぴょんぴょんと跳ね回った。

 「今から興奮してどうするんです、祭りまで特訓ですよ」
 「はあーい!」

 じたばた暴れるリツを見ながら、暁斗が笑っている。
 その賑やかな様子を、物陰からじっと覗き込んでいた人影があった。紗世だ。

 「あ、あの!!」

 急に声を張り上げた紗世に、その場の全員の視線が集まる。

 「その……お祭りの日なんですけど、静馬さんも私たちと一緒に行きませんか!?」

 (紗世さん、言った……!)

 みづきは思わず固唾をのんで見守る。
 一方の静馬はというと、特に驚く風でもなく涼しげな顔のままあっさりと頷いた。

 「もちろん行きますよ」
 「え……っ、本当ですか……?」
 「はい」

 あまりにあっさりと承諾されて、紗世がぱっと顔を上げる。その顔は一瞬で期待と喜びで輝いたのだが――

 「リツにかけた術が途中で解けないか心配ですからね。祭りの間は状況把握に努めるつもりです」

 至って真面目すぎる返答に、ぴしり、と紗世の笑顔が固まった。

 「もう~~~~っ!!」
 「……どうかしましたか?」
 「いいえ!理由はともかく、一緒に行けるならそれでいいです!」

 紗世は真っ赤な顔のまま叫んでから、居間からバタバタと飛び出していく。

 静馬はなおも不思議そうに首を傾げていた。

 「私は何か失礼なことを言いましたか?」
 「言ってはないけど、お前は女心がわかってなさすぎる」
 「?」

 (お祭りかあ……)

 祭りまで、あと一週間。
 当日は今日よりも賑やかな日になりそうだ。そんな予感がした。