穢れの軍神と縁の花嫁

 「いやだーー!!」

 みづきが屋敷に戻ると、居間からリツの絶叫が聞こえた。
 何事かとみづきが慌てて中に入ると、リツが朔哉に向かってぴょんぴょんと跳ねている。

 「どうしたんですか?」
 「みづき!!聞いてよ、朔哉がおまつりにいっちゃだめっていうの!!」
 「お祭り……?」
 「帝都で三年に一度開かれるお祭りのことだよ」

 朔哉がやれやれ、と困ったように肩をすくめる。

 「なんでいっちゃだめなの!?」
 「人が多くて危ないから」
 「ちゃんと人間に化けるから!それならいいでしょ!?」

 前のめりになるリツに、朔哉は首を振る。

 「リツは興奮すると我を忘れるだろう?」
 「わすれない!」
 「前にもそう言って、市場で尻尾を出したね?」
 「……っ、ちょっとだけだもん」
 「ちょっとでも駄目だよ」

 リツはぐっと言葉に詰まると、耳をぺたんと下げた。

 「……いきたいのに」

 紗世と帝都へ買い物に行った時、大通りにたくさんの提灯が吊るされていたのを思い出した。色とりどりの飾りや屋台の準備をする人たち。きっと当日になれば、もっと賑やかで綺麗なのだろう。
 がっかりするリツを見ていると、胸がちくちくと痛む。

 「あの、朔哉さん」
 「うん?」
 「あ、いえ、なんでもないです……っ」

 しょぼんとするリツを見ると、なんとか行かせてあげられないかと思ってしまう。
 けれど、そう言いかけた言葉をみづきは咄嗟にのみ込んだ。また自分は簡単に考えているのかもしれない。仙狸の時のように。

 この国では、あやかしはすべて討伐の対象だ。
 お祭りは人が多い。その中で、万が一リツが狐の子であることが露見してしまったら大変なことになるのだ。
 
 そんなみづきの葛藤を見てとったのか、朔哉は小さく息をついた。

 「連れていけないこともない、と思う」

 意外な言葉に、リツの両耳がぴょこっと立ち上がる。

 「本当!?」
 「ただし、条件付きだ」
 「じょうけん?」
 「静馬に頼んでみよう」

 朔哉がその名前を口にした瞬間、ガシャンッと激しい音がした。
 振り返ると、ちょうど新しいお茶を運んできた紗世が、盆を抱えたまま固まっていた。かと思うと、ひっくり返した湯呑みもそのままに、ものすごい勢いで居間を飛び出していってしまった。遠くで「タキさん!大変ーー!!」という叫び声が聞こえる。

 「……紗世、なんであんなに走ってるの?」
 「それは、えっと……」

 きょとんとした顔で首を傾げるリツに、みづきは言葉を詰まらせた。
 どう答えたらいいものか分からず、助けを求めるように朔哉を見上げると、朔哉もまた苦笑いを浮かべていたのだった。