穢れの軍神と縁の花嫁

 その瞬間、ザッと鋭く風を切る音が響いた。

 空気を震わせるような金属音とともに、刹那、瞼の裏が真っ白な閃光に包まれる。
 やがて、みづきの周囲だけ激しい喧騒が止んだ。

 「え……?」

 おそるおそる目をあけると、そこには黒の軍服を纏ったひとりの青年が立っていた。

 夜の闇を溶かし込んだような黒髪に、整った涼やかな顔立ち。
 逆光に照らされたその姿は、血生臭い騒乱の中に現れたものとは思えないほど美しくて。みづきは恐怖も忘れて、ただ息をのんだ。

 (この人は、誰……?)

 彼の足元には、さっきまで堂島たちを襲っていたあやかしが倒れている。仲間を斬られた残りのあやかしたちが唸り声を上げ、一斉に飛びかかった。
 青年は軍刀を握り直して振るうと、一筋の光となって弧を描く。斬られたあやかしの体は砂のように空中で霧散し、跡形もなく消えてしまった。

 「討伐軍だ……!」
 「軍神様だ! 軍神様が来てくださったぞ……!」

 誰かが歓喜の声をあげた。

 ――五百森(いおもり)家当主、五百森朔哉(さくや)
 皇国直轄の討伐軍の最高戦力であり、国家の守護者として崇められる最強の討伐者。彼が刀を振るえば、どんな凶悪なあやかしも一瞬で塵に還るという。人々は畏敬を込めて、彼のことを『軍神』と呼んでいた。

 湧き上がる安堵と歓声。
 しかし、浴びせられる賞賛を気にする様子もなく、黒髪の青年――朔哉は、みづきへと振り返った。

 「立てるか?ここは危険だ、早く逃げるといい」

 泥だらけのみづきをいたわるような声は、先ほど凄まじい一閃を放った人とは思えないほど優しい。