穢れの軍神と縁の花嫁

 (あやかし……?この子が?)

 あやかし、と言われて、故郷を滅ぼしたあやかしや、羽倉で遭遇した瘴狼が即座に頭に思い浮かぶ。
 でも、この猫は瘴気もまとっていないし狂暴でもない。

 「そのあやかしをこっちへ」

 羽倉で見た、あやかしと対峙していた時の朔哉と同じ目だった。冷徹で容赦のない軍神の目。みづきは思わず、腕の中の猫をぎゅっと抱きしめた。

 「……いやです」
 「みづき」
 「だって、この子は何もしていません。すごくいい子で、おとなしくて……っ」
 「わかっている」

 感情を押し殺したような、有無を言わせぬ静かな威圧感で、ゆっくりと手を伸ばしてくる。
 この人に逆らうつもりはない。けれど、どうしても胸が締め付けられるような恐怖が離れない。

 「……朔哉さんなら、許してくれると思いました」

 リツとすぐに仲良くなった時は、あんなに嬉しそうにしてくれていたのに。どうして。

 「期待を裏切ったならすまない」

 さっきまでの硬い声から打って変わって、朔哉は申し訳なさそうに謝った。
 責めたかったわけではなかったのに――みづきは俯いて、そっと腕の中の猫を朔哉へと託す。みづきの腕から引き剥がされた猫は、朔哉に抱かれても大人しいままで、朔哉はその青緑色の瞳をじっと覗き込んだ。

 「……仙狸(せんり)か。驚いたな」

 聞いたことのない名前だった。