穢れの軍神と縁の花嫁

 「まずは、足の位置から教えるね」

 足を肩幅くらいに開く。足先はまっすぐ揃えて。ひとつひとつ教えられるたびに、すぐそばに立つ朔哉からは、彼の体温と、さっきまでの稽古の熱が伝わってくるようで――みづきは急に落ち着かなくなってしまう。

 「じゃあ、弓を構えて……もう少し、左腕を伸ばして」

 言われた通りにしようとしたものの、弓の重さに負けて腕が下がってしまう。

 「少し肩に力が入りすぎてる」

 すぐそばで声がしたかと思うと、背後から包み込まれるように、朔哉の体がぴったりと重なった。
 肩越しに腕が伸びてきて、弓を握る左手と矢を持つ指に、朔哉のそれが添えられる。

 (ち、近い……!)

 「あ、あの、朔哉さん……!?」
 「頭を動かしたら狙いがぶれてしまうよ。まっすぐ前を見て」

 それどころではないのに、朔哉はまったく気づいていない。当たり前だ、彼はただ真剣に教えてくれているだけなのだから。耳元にかかる吐息が気になって、少しも集中できない。みづきは速くなる鼓動を悟られないよう、ただ必死に的を見つめる。

 「よし、狙いを定めて……手を離してごらん」

 パッと弦を放す。
 ビィン、と鋭い音が響いたけれど、矢はあらぬ方向へ飛び、的のはるか手前の地面へと寂しく突き刺さった。

 「う……全然だめでした……」
 「最初はそんなものだよ。それに矢を放す瞬間に怖くて目をつぶっていただろう?」
 「あ……」
 「怖いかもしれないけれどね。もう一回やってみようか」

 朔哉は優しく諭すように言うと、もう一度みづきの後ろに回った。

 「右手は、後ろへ引くんじゃない。胸を開いていけば、自然とついてくる」

 そう言いながら、朔哉がみづきの腕をゆっくりと導く。背中には朔哉の胸元が触れそうなほど近く、腕の中にすっぽりと収められているようだった。

 「みづき」

 いつもより近くで名前を呼ばれ、肩が小さく揺れた。
 その拍子に、引いていた弦まで震える。

 「ゆっくり俺と呼吸を合わせてみて」
 「……はい」

 すう、はあ、と朔哉の呼吸に合わせるように、みづきも深く息を吐き出すと、こんなに密着しているのに不思議と落ち着いてくる。

 朔哉の手の温もりを信じて、もう一度弦を引き絞ってから指先を放した。

 ――タァン……ッ

 放たれた矢はまっすぐに飛び、的の中心から少しズレた白い部分に、しっかりと突き刺さっていた。

 「当たった……!?」

 みづきが目を見開くと、背後に立つ朔哉からも驚いたような気配が伝わってきた。

 「すごいな。本当に当てるとは思わなかった。初めてでこれだけまっすぐ飛ばせるなら、十分に素質がある」
 「最初は難しかったですけど、やってみたら楽しかったです」
 「本当に?それなら、明日から一緒に稽古する?」
 「えっ!?稽古ですか……!?」

 慌てるみづきを見て、朔哉はくすくすと声を立てて笑った。

 「冗談だよ。でも、見学ならいつでも構わないから」

 本気にしてもいいのだろうか。みづきは弓を抱えたままどう反応していいかわからなくて、すぐには返事ができなかった。それでも、またここへ来てもいいのだと思うと嬉しい。

 みづきは少し迷ってから、そっと顔を上げた。

 「じゃあ……また、見に来てもいいですか?」
 「もちろん。いつでも歓迎するよ」