穢れの軍神と縁の花嫁

 「本当にすみません、お邪魔してしまって」
 「いいんだよ。ちょっと照れくさかっただけ。普段人に見せないからね。軍部では剣術の訓練が中心だから」

 自分だけが知っている、そう思うとすごく特別な感じがしてドキドキする。
 
 「左腕は、痛くないんですか?」

 朔哉は自分の左腕へ視線を落とし、軽く指を動かしてみせた。

 「君が包帯を巻いてくれたからかな。今日はずいぶんと調子がいい」
 「え……」
 「だから、心配しなくて大丈夫だよ」

 そう言って柔らかく微笑まれると、みづきはますます顔が熱くなるのを感じた。

 「毎朝、こうして稽古をされているんですか?」
 「俺の父親が、すごく弓術の得意な人だったんだ。毎朝、この弓道場で熱心に稽古をしていてね。俺も子供の頃は、よく無理やり付き合わされた。当時は眠くて仕方がなかったんだけど……それが今ではすっかり日課になってしまったというわけだ」

 懐かしむように、朔哉がふっと目を細めた。

 「やってみる?」
 「え?」
 「すごく熱心に見ていたから、やりたいのかなと思って」
 「えっ、絶対に無理です……っ!」

 違います、見惚れていたんです、と言いたいけれど、そんなこと本人を前にして言えるわけがない。
 あまりに全力で首を横に振ったせいか、朔哉が楽しそうに声を上げて笑う。

 「そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか」
 「嫌というわけじゃ……っ、私、やったことないですし!」
 「大丈夫。俺が教えるから」

 そう言って、壁際に立てかけられていた大弓をひょいと手に取った。

 「ほら、持ってみて」

 目の前に差し出されてしまうと、もう断りきれない。
 数秒ほど心の中で葛藤したあと、みづきは観念したように小さな両手で弓を受け取った。予想以上の重量感に、思わず「うわっ」と声が漏れる。

 「お、重いです……っ」

 まずはまっすぐ持ちたくても、その大きさに振り回されて体がよろめく。
 すると朔哉は手拭いで口元を押さえていた。どう見ても、笑いをこらえている。

 みづきは少しだけ悔しくなって、不満げに頬を膨らませた。

 「……笑うなんてひどいですっ」
 「ごめん、笑ってないよ」
 「絶対に笑ってました」

 そんな子どもみたいなやり取りをしながら、なんとか弓を抱え込む。