穢れの軍神と縁の花嫁

 五百森家へ来てから、一週間が過ぎた。

 その日、みづきはいつもより早く目を覚ました。まだ朝日が昇りきる前の、少し薄暗い時間。窓を開けると、ひんやりとした朝の空気が心地いい。ぼんやりと庭を眺めていると、不意に人影が目に入る。

 「あ……」

 庭を歩いているのは朔哉だった。けれど、朝の散歩という雰囲気ではない。今の朔哉は白の稽古着を着て、何かを手に持っている。

 (どこへ行くんだろう?)

 ほんの少しだけ、気になった。本当に、本当に少しだけ。
 そう自分に言い訳をしながら、みづきは急いで寝間着を着替えて身支度をする。朝食まではまだ時間があるし、少しくらいならいいだろう。そう思って部屋を出た。
 階段を下りると、屋敷の中はシンとしていた。台所もまだ火がついていない。まだみんな寝静まっている時間。

 みづきは玄関から庭へ出ると、芝生を抜けて石畳をたどった。
 その先にあったのは、離れだった。

 近づくだけで背筋が伸びるような、静かで厳かな佇まいに、みづきは足を止める。勝手に入ってもいい場所なのだろうか。

 ――ビィン……ッ。

 そのとき、鋭い音が朝の静けさを震わせた。
 音のした方へ回り込むと、そこには弓道場があった。磨き込まれた床に、淡い朝の光が差し込んでいる。

 その中央に、朔哉が立っていた。再び弓を構えて、ゆっくりと弦が引き絞られていく。

 弓を支えているのは、包帯に覆われた左腕だった。
 昨日見せてもらった黒い鱗を思い出して、大丈夫だろうかとわずかに胸がざわめく。けれど、朔哉は痛みを感じている様子もなく、静かに構えていた。
 すっと伸びた背筋、無駄なく開かれる肩――そのすべての動作ひとつひとつが美しくて、息をするのも忘れてしまう。

 次の瞬間、矢が放たれた。矢は一直線に飛んでいくと、パーンと乾いた音が響いた。遠くの的の中心に、突き刺さった矢が揺れている。

 「……すごい」

 思わず、声が漏れた。

 「みづき?」

 みづきははっと我に返った。いつの間にか、弓を下ろした朔哉がこちらをじっと見つめている。

 「ご、ごめんなさい……!」

 慌てて頭を下げる。見てはいけない神聖なものを無断で覗き見してしまったような気がして、顔が熱くなった。

 「謝ることないよ。でも、早起きなんだな」
 「たまたま目が覚めてしまって」
 「そうか。まさか君に見られていると思わなかったな」

 そう言って射場の端に置いてあった手拭いを取って、額に滲んだ汗を無造作に拭う。その何気ない仕草までいちいち絵になっていて、みづきは慌てて視線を逸らした。
 朝の空気はこんなにひんやりしているのに、頬の熱が全然引いてくれない。