穢れの軍神と縁の花嫁

 「ここでの暮らしはどう?困っていることや、なにか不自由をさせていないか気になって」
 「そんなことありません」

 みづきは慌てて首を横に振った。

 「とても良くしてもらっています。タキさんや紗世さんには温かく迎えてもらって……私にはもったいないくらいです。それに、リツくんとお友達になれましたし、羅刹さんとも」

 今朝のくるくると表情が変わる狐耳のリツと、黒いひよこ姿の羅刹を思い出して、みづきは笑う。

 「君はあまり驚かないんだね」
 「え?」
 「リツや羅刹のことだよ」

 狐耳としっぽを持つ男の子と、黒いひよこに姿を変える羅刹鳥。普通だったらありえない。でもなぜだろう、不思議だなとは思いながらも、受け入れていた。

 「リツは気に入った相手にしか近寄らない。だから、今朝君のところへ会いに行ったと聞いて驚いた」
 「同じことを言われました。怖がらないんだねって」
 「君はなんて答えた?」
 「えっと……そのまま、怖くないですって。実際にすごく可愛いですし」

 みづきの言葉に、朔哉は思わず小さく笑った。

 「リツには、初対面の人の前では不用意に姿を見せないよう言い聞かせているんだけど、随分と君のことが気に入ったらしい」

 そう言って朔哉はまくっていた羽織を戻して立ち上がる。

 「今日は午後から軍部へ行く前に、俺が屋敷を案内しようか」
 「え?」
 「リツの案内だけだと、屋根裏や庭とか遊び場ばかりになりそうだからな。当主としてきちんと案内し直そう」

 その時、バタバタと廊下から誰かが走ってくる音がしたかと思うと、書斎の扉が勢いよく開いた。
 噂をすれば、リツだ。

 「朔哉ー!みづきー!」
 「リツ、部屋に入る時はノックをするように言っているだろう」
 「だって、早くみづきと遊びたかったんだもん!」

 悪びれる様子もなく言い切るリツの後ろから、今度は羽音が近づいてきた。

 「わしは止めたぞ。この狐の子が聞かんのじゃ」

 黒いひよこの姿をした羅刹鳥もまた、書斎へ飛び込んでくる。その姿にみづきは思わず笑った。

 「騒がしい家だろう?」

 朔哉が呆れたように息をついたが、その目元はどこか優しい。
 
 「でも、とても温かいです」
 「そうか」

 その声は、どこか嬉しそうだった。