穢れの軍神と縁の花嫁

 そう言って朔哉は小さく笑うと、みづきの手をそっと離した。
 離れた瞬間、指先に残っていた温もりまで遠ざかっていくような気がして、みづきは思わずその手を見つめる。

 包帯の解かれた左腕は、相変わらず人ならざる姿のままだった。
 黒い鱗に覆われた異形の腕。けれど、不思議と怖いとは思わなかった。

 朔哉は机の上に置いてあった包帯を手に取って、新しく巻き直そうとする。
 
 「あの、私にやらせてくれませんか?」
 「え?」
 「包帯です」

 言いながら、自分でも少し恥ずかしくなる。

 「その……私に手伝わせてください」

 朔哉は一瞬だけ目を瞬かせた。
 それから包帯とみづきを見比べる。

 「……じゃあ、お願いしようかな」

 包帯を受け取るため、長椅子の上で身体の向きを変えると、自然と距離が近くなった。少し腕を伸ばせば肩が触れてしまいそうな距離。みづきは意識しないよう努めながら、包帯の端を手に取る。

 「苦しくないですか?」
 「ああ、大丈夫」

 黒い鱗を傷つけないよう、慎重に包帯を重ねていく。
 何度か巻き重ねて、最後に端を結んだ。

 「……こんな感じでいいでしょうか?」
 「ああ、ありがとう」

 朔哉は包帯の巻かれた左腕を見つめ、それからほんの少しだけ口元を緩めた。