朝食後、タキと紗世は洗濯へ向かい、リツと羅刹は庭へと戻っていった。
さっきまで賑やかだった食堂が急に静かになり、気が付くと朔哉とふたりきりになっていた。
みづきは所在なげに空になった湯呑みを手の中で転がしながら、新聞に目を通す朔哉の様子を盗み見る。窓から差し込む朝陽が、朔哉の整った横顔を淡く照らしている。みづきは声をかけるのも忘れて、しばらく見惚れてしまった。
「あの、朔哉さん……」
まだ慣れない呼び方。少し震えてしまったことに気づかれていないだろうかと緊張していると、朔哉は新聞から視線をみづきへと向けた。
「どうかした?」
「あの……今日は、お仕事は大丈夫なんですか?」
タキから『いつも朝食を終えたらすぐに仕事へ戻られる』と聞いていた。けれど、今は軍服から着替えてゆったりとした藍色の羽織を着ている。
朔哉は質問の意図を理解したように、ああ、と短く頷いた。
「今日は午後からなんだ。それでもいつもは決まって早くに出て行くんだけど、君のおかげで必要がなくなったから」
「私のおかげ……?」
「このあと、少し時間はあるかな」
朔哉は読みかけの新聞を丁寧に畳むと、テーブルの上に置いた。
「君に聞いてほしいことと、確かめたいことがある。怖い話ではない……と言い切れればいいんだけど、そうではないかもしれない。けれど、君にはきちんと話しておきたい」
故郷をなくし流民となったみづきに向けられてきた言葉は、いつも一方的だった。
出て行け。あやかし憑きがいると穢れる――決めつけと、罵倒。拒絶。誰もみづきと話をしようとしてくれなかったし、みづきの話にも耳を貸してはくれなかった。
でも朔哉は違う。彼はみづきに伝えようとしてくれている。知らないまま怯えないように、置いてきぼりにならないように。
そのことがなによりも嬉しかった。
「……私も、朔哉さんに聞きたいことがあります」
勇気を出してそう答えると、朔哉は口元を緩めた。
「じゃあ、俺の書斎へ行こうか。タキさんに頼んで紅茶を持ってきてもらおう」
さっきまで賑やかだった食堂が急に静かになり、気が付くと朔哉とふたりきりになっていた。
みづきは所在なげに空になった湯呑みを手の中で転がしながら、新聞に目を通す朔哉の様子を盗み見る。窓から差し込む朝陽が、朔哉の整った横顔を淡く照らしている。みづきは声をかけるのも忘れて、しばらく見惚れてしまった。
「あの、朔哉さん……」
まだ慣れない呼び方。少し震えてしまったことに気づかれていないだろうかと緊張していると、朔哉は新聞から視線をみづきへと向けた。
「どうかした?」
「あの……今日は、お仕事は大丈夫なんですか?」
タキから『いつも朝食を終えたらすぐに仕事へ戻られる』と聞いていた。けれど、今は軍服から着替えてゆったりとした藍色の羽織を着ている。
朔哉は質問の意図を理解したように、ああ、と短く頷いた。
「今日は午後からなんだ。それでもいつもは決まって早くに出て行くんだけど、君のおかげで必要がなくなったから」
「私のおかげ……?」
「このあと、少し時間はあるかな」
朔哉は読みかけの新聞を丁寧に畳むと、テーブルの上に置いた。
「君に聞いてほしいことと、確かめたいことがある。怖い話ではない……と言い切れればいいんだけど、そうではないかもしれない。けれど、君にはきちんと話しておきたい」
故郷をなくし流民となったみづきに向けられてきた言葉は、いつも一方的だった。
出て行け。あやかし憑きがいると穢れる――決めつけと、罵倒。拒絶。誰もみづきと話をしようとしてくれなかったし、みづきの話にも耳を貸してはくれなかった。
でも朔哉は違う。彼はみづきに伝えようとしてくれている。知らないまま怯えないように、置いてきぼりにならないように。
そのことがなによりも嬉しかった。
「……私も、朔哉さんに聞きたいことがあります」
勇気を出してそう答えると、朔哉は口元を緩めた。
「じゃあ、俺の書斎へ行こうか。タキさんに頼んで紅茶を持ってきてもらおう」

