穢れの軍神と縁の花嫁

 「みづきちゃん、こんなところにいた!お召し替えしようと思ったらお部屋にいないんだもん、探しちゃったわ」
 「あ、すみません……!」

 縁側から庭に降りてやってきた紗世が、こちらへ走ってくる。
 すると、みづきの手のひらの上で「ふん」と偉そうにふんぞり返っている黒ひよこを見て、ぷっと噴き出した。

 「やだ、羅刹さんってばなんでひよこの姿になってるのよー!?」
 「笑うでない。客人へのもてなしじゃ」
 「渋いおじさん声の黒ひよこなんて、余計に怪しくてびっくりされちゃうでしょ!」

 ついに朔哉までもが、呆れたように小さく肩を揺らして笑っている。
 目の前で繰り広げられる、賑やかな日常の風景。そんな中に自分がいるなんて、まだ夢みたいで信じられない。

 「あ、あの、五百森さん……っ」
 「朔哉」
 「え……?」
 「朔哉でいい」

 (え、ええ……っ!?)

 「い、いえそんな!お、恐れ多くてっ」
 「そんなことはない。親しい人はみんなそう呼んでるから」

 穏やかな微笑みを浮かべながら次々に落とされる爆弾級の言葉に、みづきの頭の中は一瞬で真っ白になった。言いたかったお礼もなにもかも吹き飛んでしまいそうなほどに。

 それでも、昨日からずっと胸に仕舞い込んでいた言葉を伝えたくて、みづきは裾をきゅっと握りしめる。

 「さ、朔哉さん……昨日はきちんとお礼が言えなくて……。私なんかを助けていただいて、こんなによくしてもらって、本当にありがとうございます」

 故郷を失ってから半年。誰も自分を人間として扱ってくれなかった。
 あやかし憑き、化け物――そんな自分を救い上げて、この温かな場所へと繋ぎ止めてくれたのは、他でもないこの人だ。

 「君をここに連れてきたのは、俺の意志だ。君をあの町に君を残していくことはできなかったから。君はここではなにも気にせず、元気になってくれたらそれでいい」

 朔哉が少しだけ目線を落として、柔らかく微笑んでいた。

 「さあみづきちゃん、若様も戻られたことだし、急いでお着替えしちゃいましょう! 美味しい朝ご飯が待ってるわよ」

 リツや羅刹に「また後でね」と手を振り、朔哉に一礼して、みづきは紗世に手を引かれてお屋敷の中へと戻っていく。
 その帰り道の廊下で、紗世はみづきにだけ聞こえるように、いたずらっぽく小声を潜めて、そっと耳元で囁いた。

 「ね?ちょっと変わってるけど、すっごく面白くて素敵なお屋敷でしょ?」
 「はい、とっても」

 その言葉に、みづきは心からの笑顔で頷いた。