翌朝。みづきはゆっくり目を開けて、見慣れない天井を見つめた。
しばらくの間ここがどこだか分からなかったけれど、すぐにここが五百森家のお屋敷だと思い出した。
(こんなにぐっすり眠れたの、いつぶりだろう……)
いつもは悪夢で飛び起きたり、わずかな物音に怯えたりと、何度も目が覚めていたのに。
寝台から下りて窓の外の景色を眺めていると、背後でキイ……と扉が開く音がした。
「……っ?」
振り返ると、少しだけ開いたドアの隙間から、何かがこちらをじっと覗き込んでいる。きらきらとした丸い瞳と目が合うと「ひゃっ」と小さな声をあげて、ぱっと扉の陰に隠れてしまった。
驚いて固まっていると、数秒後にまたひょこっと顔を出してくる。よく見れば、五歳くらいの人間の男の子のように見えるけれど――
(え……、あれって耳……?)
男の子の頭の上には狐の耳が生えていてぴょこぴょこと動いている。それだけじゃない。白くてふわふわとした尻尾が、隠しきれずに見切れているのだ。
「ねえ、おへやはいってもいーい?」
「うん……どうぞ?」
男の子の表情がぱあっと輝いた。ぱたぱたと勢いよく駆け込んでくると、寝台へぴょんっと軽い身のこなしで飛び乗ってきた。
「ごめんね、びっくりさせて。いままでかいだことのない匂いがしたから、気になっちゃって!」
「匂い……?」
男の子は鼻をくんくんと動かしながら、さらに顔を近づけてきた。
「そう、朔哉の匂いとにてる。でもすこしちがう。ふしぎだねえ」
そう言って、男の子の白い尻尾が嬉しそうにゆらゆらと大きく揺れる。
「ねえねえ、なまえなんていうの?」
「花菱みづきです。昨日からこのお屋敷でお世話になってて……」
「みづきね!ぼくはリツ!」
「リツくん、よろしくね」
リツにつられて微笑むと、リツは丸い目をぱちくりとさせて首を傾げた。
「みづきはぼくのこと、こわがらないんだね?」
「それは、その耳や尻尾のこと?」
「そうだよ。だってみんなとちがうでしょ?朔哉がね、ここのお屋敷以外の人にはみせちゃだめって」
そう言うと、リツの耳が少しだけへにゃんとなった。
確かに、人間の頭に狐の耳が生えているのは不思議だ。でも怖いかと言われれば、ちっとも怖くなかった。むしろ、ぴょこぴょこと動く耳もふわふわの尻尾も、たまらなく可愛い。
「私は全然怖くないよ。その耳も尻尾もとっても素敵だなって思ったの」
「ほんとっ?ぼく、みづきのことすき!」
「わっ……!?」
小さな体が勢いよく飛び込んできて、みづきは思わず声をあげた。両腕でぎゅっと抱きついてくるリツからは、おひさまのような匂いがする。
「みづき、きょうからぼくのともだちね! ぼくがこのお屋敷の中、ぜーんぶ案内してあげる!」
「ちょっと待ってリツくん、私まだ着替えが……っ」
「そんなの気にしなーい!ほらいこ!」
元気いっぱいに廊下へと駆け出していくリツに急かされて、みづきはその後ろ姿を慌てて追いかけることになってしまった。
しばらくの間ここがどこだか分からなかったけれど、すぐにここが五百森家のお屋敷だと思い出した。
(こんなにぐっすり眠れたの、いつぶりだろう……)
いつもは悪夢で飛び起きたり、わずかな物音に怯えたりと、何度も目が覚めていたのに。
寝台から下りて窓の外の景色を眺めていると、背後でキイ……と扉が開く音がした。
「……っ?」
振り返ると、少しだけ開いたドアの隙間から、何かがこちらをじっと覗き込んでいる。きらきらとした丸い瞳と目が合うと「ひゃっ」と小さな声をあげて、ぱっと扉の陰に隠れてしまった。
驚いて固まっていると、数秒後にまたひょこっと顔を出してくる。よく見れば、五歳くらいの人間の男の子のように見えるけれど――
(え……、あれって耳……?)
男の子の頭の上には狐の耳が生えていてぴょこぴょこと動いている。それだけじゃない。白くてふわふわとした尻尾が、隠しきれずに見切れているのだ。
「ねえ、おへやはいってもいーい?」
「うん……どうぞ?」
男の子の表情がぱあっと輝いた。ぱたぱたと勢いよく駆け込んでくると、寝台へぴょんっと軽い身のこなしで飛び乗ってきた。
「ごめんね、びっくりさせて。いままでかいだことのない匂いがしたから、気になっちゃって!」
「匂い……?」
男の子は鼻をくんくんと動かしながら、さらに顔を近づけてきた。
「そう、朔哉の匂いとにてる。でもすこしちがう。ふしぎだねえ」
そう言って、男の子の白い尻尾が嬉しそうにゆらゆらと大きく揺れる。
「ねえねえ、なまえなんていうの?」
「花菱みづきです。昨日からこのお屋敷でお世話になってて……」
「みづきね!ぼくはリツ!」
「リツくん、よろしくね」
リツにつられて微笑むと、リツは丸い目をぱちくりとさせて首を傾げた。
「みづきはぼくのこと、こわがらないんだね?」
「それは、その耳や尻尾のこと?」
「そうだよ。だってみんなとちがうでしょ?朔哉がね、ここのお屋敷以外の人にはみせちゃだめって」
そう言うと、リツの耳が少しだけへにゃんとなった。
確かに、人間の頭に狐の耳が生えているのは不思議だ。でも怖いかと言われれば、ちっとも怖くなかった。むしろ、ぴょこぴょこと動く耳もふわふわの尻尾も、たまらなく可愛い。
「私は全然怖くないよ。その耳も尻尾もとっても素敵だなって思ったの」
「ほんとっ?ぼく、みづきのことすき!」
「わっ……!?」
小さな体が勢いよく飛び込んできて、みづきは思わず声をあげた。両腕でぎゅっと抱きついてくるリツからは、おひさまのような匂いがする。
「みづき、きょうからぼくのともだちね! ぼくがこのお屋敷の中、ぜーんぶ案内してあげる!」
「ちょっと待ってリツくん、私まだ着替えが……っ」
「そんなの気にしなーい!ほらいこ!」
元気いっぱいに廊下へと駆け出していくリツに急かされて、みづきはその後ろ姿を慌てて追いかけることになってしまった。

