穢れの軍神と縁の花嫁

 食事を終えて、みづきは二階にある客間に通された。広々とした部屋はモダンな洋間で、壁際に箪笥(タンス)や鏡台、窓際には大きな寝台(ベッド)がある。

 「こんなに立派なお部屋、本当に私が使っていいですか?床で十分なんですけど」

 崩れそうなあばら屋で寝ていたことを思えば、こんなお屋敷に留まらせてもらうだけでも贅沢すぎる。

 「なに言ってるの、床なんて寝かせたら私が若様に怒られちゃうわよ!さて、寝る前に髪を梳かしましょ」

 紗世に促されて鏡台の前に座ると、つげ櫛が髪をすうっと滑っていく。

 「洗ってた時も思ったけど、みづきちゃんってまっすぐで綺麗な髪よね~」

 ――みづきはいつも綺麗な髪ね。自慢の娘だわ。

 (あ……)

 鏡越しの紗世の姿が、一瞬、優しく微笑む母の顔に重なった。毎晩のように髪を整えてくれた、懐かしい母の手の温もり。
 お風呂に入り、温かいごはんを食べて、こうしてひとりの女の子として扱ってもらえたこと。それが、忘れかけていた幸せな日々を思い出させてくれた。

 「……ありがとうございます、紗世さん」
 「いいのよーお礼なんて!よし、おしまい!今日はゆっくり休んでね、みづきちゃん」

 紗世が部屋の明かりを落として、静かに扉を閉めた。
 ひとりきりになった部屋が、静寂に包まれる。みづきは寝台に横になると、そのふかふかと柔らかい感触に驚きながらも目を閉じた。

 (明日の朝……会えるかな……)

 小さな期待を胸に、みづきは深い眠りへと落ちていった。