穢れの軍神と縁の花嫁

 玄関前で足を止めた朔哉は真鍮の叩き金を二回鳴らす。ほどなくして扉が開いて、中から五十代ほどの藍色の着物に白い割烹着を着た女性が出迎えた。

 「若様、お帰りなさいませ」
 「ただいまタキさん」
 「今日はお早いお帰りで――あら、」

 タキと呼ばれた女性の視線がみづきへと向けられて、緊張で身を固くする。

 「羽倉の任務で保護した。彼女のことを頼めるか?まずは湯浴みと食事の用意を」
 「あ、あの、花菱みづきと申します。突然申し訳ありません、それにこんな格好で……」

 なにも聞かされていないタキはさぞ戸惑っているだろう。みづきは深く頭を下げた。タキは、すぐにすべてを察したようにみづきへ歩み寄ると、そっと手を握った。

 「羽倉から?まあまあ、遠かったでしょうに。汚れのことなら気にしなくていいんですよ!若様なんていつも任務から帰ったら泥だらけの傷だらけなんですから!」

 そう言ってちらりと朔哉へ視線を向ける。

 「それで若様、ご自身の怪我の手当ては?」
 「問題ないよ」
 「若様」
 「……あとで静馬(しずま)に手当てしてもらう」

 朔哉がバツが悪そうに少しだけ声を低くすると、タキはふんと鼻を鳴らした。

 「まったく、ご自分のこととなるとすぐこれなんですから」

 朔哉は軽く咳払いをしてから、みづきの方を振り返る。

 「タキさんは長くここで働いているから、大抵のことは心得ている。困ったことがあればなんでも言うといい」
 「そうですよ、なんなりとお申し付けくださいな!」

 彼女のことを頼んだよ、と言い残して、朔哉は踵を返して玄関を出て行ってしまった。

(お礼も、言えなかった……)

 呼び止める間もなく閉じてしまった扉を呆然と見つめていると、タキがぽんっとみづきの肩を優しく叩いた。

 「さて、では行きましょうか!まずはお湯に浸かりましょうね、新しいお召し物も用意しますから」
 「……はい、ありがとうございます」