波にはじまり、波におわる。

 救急車で搬送されて1週間後の午後、母は退院して自宅に帰った。

 今回は極度のストレスや過労、直前の風邪による発熱等が絡み合って一気に数値が悪化したためだそうだ。ストレスの原因も、過労の理由も聞きたくない。幸いなことに、通常の生活を送るのであれば1月に1度程度の通院で管理ができるとのことだった。
 ただ、畑仕事程度であれば問題はないものの、稲刈り等の重労働については制限された。そのため、その作業はすべて他の人がやらなければならなくなった。いったい、誰がやるのだろうか?


「そうじゃないでしょ!!まずは外をグルっと2周くらい回ってから、今度は縦に行くのよ。ああっ何で、そこで方向展開するかなあ。ちょっと考えれば、非効率だって分かるでしょ!!だから―――」

 マジでうるさい。
 くどい。
 稲刈りなんて大嫌いだ!!
「分かってるって。ちゃんとやってるよね!?刈り残しも無いし、初めてにしては120点だと思うんだけどね!!」

「ほら!!袋が一杯になったら外して、ウチのは袋式のコンバインなんだから、ちゃんとブザーが鳴ったら袋を代えて。ああ、もう、こっちで下ろして。そっちで下ろしたら運ぶ距離が・・・ああ、だから!!」

 母は稲刈り等の重労働禁止令が出たため、コンバインの操縦も米の運搬も自分がやらなければならなくなった。母はというと、鬼監督と化した。麦藁帽子を深々と被り、ファン付きベストを身に付けて畦に陣取っている。
 母自身が第三者目線で最適解を導き出しながら、自分にすらできないことをやらそうとしてくる。そんなこと、初心者にできるはずがない。

 午前中にヘロヘロになりながら稲刈りを終わらせ、倉庫の中に設置されている乾燥機に移し入れた。あとはコンバインを洗い、乾燥機を始動するだけだ。始動?何をどうやって?ああ、もう、とりあえず、昼御飯を兼ねて休憩をしよう。
 振り返ると、母の姿はもうどこにもなかった。

「悠太、休憩にしよう!!おにぎりと素麺くらいしか用意してないけど、みんなで一緒に食べるよ」
 どこにいたのか、姉がお昼時だと呼びに来た。
 こういうイベントのときには、手伝う、役に立つに関わらず、全員が集合することになった。やはり、家族にはコミュニケーションが必要だ。血の繋がりだけでは家族とは呼べない。

 3人で食卓を囲み素麺を啜っていると、テレビを見ていた母が呟いた。
「来週は、また台風が直撃しそうな感じね」
 それを受けて、姉が相槌する。
「今週にして良かったじゃん。もう稲刈りも済んでるし、台風が来ても何も関係ないよね」
 2人の会話を聞いて、大きく息を吐いた。
「2人は口しか動かしてないだろ」



 襲来する台風は1つとは限らない。
 強い台風もあれば、弱い台風もある。
 強風が吹き荒れることもあれば、豪雨が叩き付けることもある。

 でも、必ず通り過ぎ、その後はスッキリと晴れ渡る。




     ~ fin ~