八尺家の長男坊

暑い
ただそれだけだ。
セミが煩くて頭がぐわんぐわんする。
あ-服ぬぎてえ
いくら田舎でも変な目で見られんのかな...
嫌だ
不審者にはなりたくない。
けど俺にはもう起き上がる気力は残っていなかった。
水が飲みたい。喉が乾いてヒリヒリしてきた
昨日からなんにも飲んでないもんな、水道水ガブ飲みしとけば良かった、
家も学校もとにかく全部がダメだった。俺は無関心な父親もヒステリックな母親も、愛想笑いだけの担任も嫌いだった。好かれてもいいことなんかねえからな
そんな態度が癪に触ったのかとうとう家を追い出された。1回も会ったことない父方のばあちゃんとやらを待っている。だが何事も上手くいかないのが俺の人生だ。ばあちゃんは家にいない、忘れられているのか
あいつらが連絡していないのか、そんなことはどうだっていい、ただ8月の炎天下の中、他に行く当てのない俺は焦った。家の電気は消えてるし、インタ-ホンを連打しても乾いた音がカチカチと鳴るだけだけで
俺を更に不安にさせた。ばあちゃんがここに住んでいるのかも信じられなくなってきたな。
頭が回らない、もっと出来ることがあるはずなのに
地面に倒れ込んでいても何も解決しない
そんなことは俺が1番分かっている
去年染めたばかりの金髪が目に入ってきた
手で振り払う気力もない
汗でまつ毛が濡れている
目が痛い、眼球が乾燥しているんだろう
そのうち何回か瞬きをしているうちに俺の意識は遠のいていった。

暑い
暑い
暑い
あつ...ん?
なんか冷たくね、?
頭に冷水をぶっかけられてるみたいな。
ぼんやりと視界が開けていく、身体の熱が引いきた。
気持ちいいな、ちょっと寒いけど。
ふと視線を感じた。誰かに見られてる、
・・・いや見下ろされている
白いワンピースが風で揺れている。長い手足が少し日に焼けているのが見えた。
髪は長く腰くらいまであり、とても暑そうだ。
麦わら帽子の影が顔にかかっている。
端正な顔立ちが妖しげな笑みを浮かべていた。少し困り眉でこちらを覗いている。

・・・おっぱいでけ-な。

よく見ると木製の桶を持っている。あ、俺に水かけてたのはコイツだな?とにかく礼を言わねばと起き上がる。頭は痛いがさっきよりはマシだ。
「なあ、その、助けてくれたんだろ?ありがとう。」
「・・・・・・」
「あ!ちょっと聞きて-んだけどこの家って人住んでんの?」
「・・・・・・ポ」
「ん?」
「ポポポポポポ!」
え...なんかおかしくね?
まさかとは思うけど方言じゃねえよな?
いや、そんなはずはない。ここにたどり着くまで何人かに道を教えてもらったが、多少の訛りはあるものの、普通に聞き取ることができた。
俺が困惑しているとその女は俺の手を取り、立ち上がった。
しゃがみ込んでいたので気づかなかったが、かなり身長が高い。かなりっていうか結構高い。
180……いやもっとだ。2メートルはあるんじゃないか?
女は俺の手を引きながら手招きした。

「ポ、ポポポポポ、ポポポ」

なにか伝えようとしている。ついてこいってことか?
正直、怪しさ満点だが、他に頼れる人はいない。
ばあちゃんがどこに居んのかもコイツなら知っているかも知れない。

俺が少ない荷物を持ち、歩き初めると女は笑い、手を握り直した。
手が冷たい……。水を汲んで俺にかけていたせいだろうか。そう考えるとなんだか申し訳なくなってきた。

「・・・ごめん」
気づけば声に出ていた。
女が振り返る。ひどく困惑した表情を見せ、戸惑っている。
「いや、手が冷たいから、その……俺に水をかけ続けたせいだろ?」
と尋ねた。女はなんだそんなことか、という安堵の表情を見せると気にするな!というように俺の肩を叩いた。

……結構痛い。
けど、言いたいことは伝わったみたいだ。表情が豊かでコロコロと変わり、何を考えているのかすぐに分かる。
どうやら俺の言葉は理解できているようで。それがせめてもの救いだった。

しばらく歩いていると風景が変わってきた。
近くに民家はなく、人の気配を感じない。
どこまで行くんだろう。少し不安になっていると、女の足が止まった。俺は止まることができず、思い切り女にぶつかった。
「ブフッ!」
俺が埋もれたくぐもった声を出すと女は心配そうに俺に駆け寄る。
「大丈夫、大丈夫。」
と俺が言うと、嬉しそうに笑う。

なんかダサいな。

別にカッコイイとか思われたいわけじゃないけど、あまりにも世話になりっぱなしで情けなくなってくる。
女は俺の肩をぽんぽんと叩くと、これを見て!と言うようにあるところを指で指し示した。

それは古びた用水路だった。
石が積まれており、それが壁の役割を果たしている。用水路には橋がかかっており、横幅はないものの、奥に続いている。
橋の裏には蜘蛛の巣がこびりついていた。

女はサンダルを脱ぎ、用水路の中へと飛び込む。
「え、」
俺が驚いていると、早く早くというようにニコニコと手招きしている。
深さは無いものの、裸足で水路に入るのには抵抗があった。
でも今はコイツについて行くしかない。俺は靴を脱ぎ、それを片手で持った。
女は相変わらず俺の手を握っている。
さすがに足場が不安定な水の中で手を繋ぐのは危ないだろうと伝えた。
女は首を振り、さらに目を瞑るように身振り手振りで俺に伝えた。
疑いの目を向けると、大丈夫!大丈夫!というようにまた、肩を強く叩く。

何が大丈夫なのかさっぱり分からない。

だがこれ以上ここで足を止めていても仕方ない。
俺は言われたように目を瞑った。

……チャプ…チャプ

水が音を立てる。
橋は思ったより奥行きがあり、トンネルのようだった。
全ての音が反響している。
空気が冷んやりとしていて、さっきまで暑くて暑くてたまらなかったはずなのに寒くなってきた。
汗が乾いたのもあるだろう。
目を瞑って歩くのは結構怖い。
ずっと屈んで歩いているから腰と足も痛くなってきた。



どれくらい経っただろうか。


冷たい空気が薄れ、じっとりとした空気が肌にかかる。

「もういいよ。」

低い声が聞こえた。
女の声にしては低すぎないか?
そんな疑問を抱きながら俺は目を開けた。


目を開けると何かが変わっていた。
周りの景色が変わっているわけでもないし、恐ろしい化け物が居るわけでもない。ただ何かが変わっている。
それだけは理解できた。
不自然な日常のような。とにかく何かが違う。

女は変わらずニコニコしている。
あれ?今コイツが喋ったのか?
鳩みたいな「ポポポ」じゃなかった。

「ふぅー……」
女はため息を吐くとおもむろに服を脱ぎ初めた。
「はぁ?!いや…いくら暑くてもダメだろ!!俺も我慢したんだぞ!お前も我慢しろよ!」
俺が必死に視線を逸らし、周囲に人がいないか確認していると女は笑い初めた。
……マジでイカれてるだろ。



「俺、男だよ」


頭上から低い声が聞こえた。

は?
俺が顔を上げると
女……いや男はニヒルな笑みを浮かべていた。
「我慢したの?我慢しなくても良かったのに。」
ソイツは笑いながらワンピースの中からタオルを取り出し初める。

??????

もう何がなんだか分からない。
胸がタオルになって……
いや、タオルが胸で……
「はぁ-暑いね、早くカツラも取りたいんだけど、髪の毛ボサボサのまま帰りたくないしなぁ。」
「お、お前なんなの」
「ん?まあ色々事情があるんだよ」
「……俺のばあちゃん知ってんの?」
「あぁ、キミはあれでしょ?和嶋さんとこのお孫さんか親戚の子だよね。あのおばあさんなら夕方まで帰ってこないと思うけど。」
「なんでだよ。」
「町の方に出掛けるのを見たからね。」

そういうことか、とりあえずあの家に、ばあちゃんが住んでいるっていうのは間違っていなかった。

「俺をどこに連れて行く気なんだ?」
「今も体調が悪そうだし、あそこにいても家に入れないでしょ?」

……確かにな。それもそうか
あのままだったら本当に危なかったと思う。

「そういえば」
男が振り向き、麦わら帽子を脱ぐ。
「キミ名前は?」
「・・・夏希」
「ふぅん。」
男が再び歩き初める。
歩幅が合わず置いて行かれそうになり、少し小走りで追いかけた。

「俺たちはね、八尺家なんだ。人間の世界では八尺様って呼ばれてる。人間とは違う。」

なんとなく分かってはいた。
2メ-トル越えの身長
白いワンピース
長い黒髪
麦わら帽子
特徴的な声
そうじゃないほうがおかしいだろ。
「八尺家は代々続く強い怪異だ。怪異も競争率が高くてね。俺たちは人間の記憶に残ることでこの形を保っている。」

「・・・へぇ」

相槌を打つが、非現実的すぎて理解が追いつかない。
意識を逸らすために道端の小石を蹴った。
「ずっと前は俺の母さんが人間界を徘徊していたんだけど、身体を壊してしまってね。八尺家の存続が危うくなったんだ。」
……色々大変なんだな。
「そこで!長男の俺が女装して人間の記憶に少しでも残ろうと奮闘しているんだ。」

もっといい方法はなかったのだろうか……
けどコイツなりに考えて出した答えなんだろうな。
俺は気になっていたことを尋ねた。
「あの用水路はなんだったんだ?」
男はゆっくりと振り返る。
「あれは、入り口と出口。こっちの世界とあっちの世界を繋いでくれる。帰るときも通るけど、絶対に目を開けちゃだめだよ。」

なんでだよ、と言おうとしたがやめた。もっと先に聞くことがあったからだ。
「名前は?」
「え?」
「な・ま・え!」
「八尺…」
「それは苗字みたいなもんだろ!俺はお前の名前が聞きたいんだよ!」
「・・・八尺家の長男坊。家族からは八千代って呼ばれてる。」
八千代はそう答えるとまた少し笑った。



しばらく歩くと古びた和風の建物が見えてきた。周りは雑草が生い茂っているものの、洗濯物やおもちゃが散乱しており生活感が漂っている。
「ここが俺の家。夕方まで涼んでいくといいよ!外はまだまだ暑いからね。」
「・・・おう」
八千代は玄関の引き戸を開け、俺を中に通した。
家の外観からは想像がつかないほど中は綺麗で整理整頓されていた。八千代が掃除してんのかな。
八千代は居間の方へ歩き俺もそれに付いて行こうとした。
「先に二階に上がってていいよ。階段上がって突き当たりを右に曲がったらすぐ俺の部屋があるから。」
八千代はそう言い、疲れてるでしょと付け加えた。
きっとお茶を用意してから上がって来るのだろう。
本当に世話になりっぱなしだ。
俺は頭を掻きながら階段を上がった。
部屋の扉はしまっておらず、風に揺れてキィキィと音を立てている。換気のためかなとか思いながらゆっくりと部屋に入る。
殺風景だったが、清潔感がある部屋だった。
窓から入ってくる風に赤色の風鈴が揺れている。
友達はいなかったし、家に遊びに行ったこともない。
くつろぎ方が分からず、部屋の中央のちゃぶ台の前に腰を下ろした。
「あはは 荷物下ろしたら?」
いつの間に...
八千代はいつからいたのか、廊下からこちらを見下ろしている。
「この部屋風通しいいでしょ?」そう言いながら麦茶を乗せたおぼんをちゃぶ台に置く。
長い黒髪を手でサラサラと撫でるとそれを引っこ抜いた。
「?!!?」
「はは、びっくりした?」
カツラを外した八千代はガラリと印象が変わる。
本当の髪は短めで顔がよく見えた。
前髪は短めで、後ろの方は刈り上げている。
汗のせいだろうか全体的に少し癖づいている。
つり目気味で端正な顔立ちをしているが、近寄りがたい感じはなくどこか親しみやすい奴だった。

...こういう奴をイケメンって言うんだろうな。
「あ!ちょっとカッコイイって思ってるでしょ?」
八千代がニヤつきながら俺の顔を覗き込む。
うっ……
そんな顔に出てたか?
全くその通りで悔しいから何も言わずそっぽを向く。
何か言い返してやりたい……
「・・・いくらイケメンでもそのワンピースで台無しだろ。」
「う-ん、確かに?」
八千代は首を傾げ、なにか思いついたような顔をした。
「じゃあ着替えようっと!」


今?

襖を勢いよく開き、押し入れの棚をあさり始めた。
自分から言ってしまった手前止めることは出来ない。
シャツとズボンを履き終えた八千代はただの好青年だ。
もう文句の付けようがない。
案の定八千代は得意げな顔をしている。
・・・余計なこと言わなければよかった。

コンコン

誰だ?
扉を叩く音が聞こえた。
俺は少し焦った。もしかして八千代以外に人がいたのか?
他人の家に招かれるのが初めてだった俺はどうすればいいのか分からない。
挨拶とか……なんて言えば……
八千代が気だるそうにドアを開ける。
「ポポ、ポポポポポ?」
八千代より少し身長が高い女の人が部屋を覗き込んできた。
優しげな雰囲気で綺麗な人だ。顔立ちは少し違うが八千代によく似ている。白いワンピースに長い黒髪という共通点があるからだろうか。

「ポポポ!ポポポポポポ!」
「ポポポ?ポポ!」
「・・・ポポポ」

……何を話しているんだ?
八千代は少し不機嫌そうだが、女の人は嬉しそうにニコニコしている。

会話が終わったのかその人は俺の方を向き、軽く会釈をした。慌ててこちらも頭を下げる。

「ふぅ。」
八千代がため息をつく。
仲が悪いわけでは無さそうだったが会話の最中、八千代はずっと顔をしかめていた。
「・・・何話してたんだ?」
「ん?いや母さんうるさくてさ、帰ったなら一声掛けろとかお茶だけじゃなくてお菓子も持っていったらいいのにとか……」
夏希のことも知りたがっていたけど長引きそうだから追い払ったと机に肘をつきながら八千代は言った。

・・・母親か、顔が似ているのも納得だ。
八千代は面倒くさそうに母親のことをあしらっていたが、本当に仲が悪いというわけではないと思う。
ちゃんと目を合わせて話しているし、乱暴に怒鳴り散らしたりしない。
良好な関係なんだろうな。
本当に仲が悪かったらわざわざ部屋を尋ねたりしないし、空気として扱う。自分の都合が悪くなったときに利用するだけだ。

「・・・八千代」
「ん、何?」
「お前なんで用水路の橋潜り抜けたら喋るようになったんだ?」
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
急に喋り出してびっくりしたし、さっきの母親との会話ては鳩のような声に戻っていたのもよく分からないからだ。

「あ-、そうだね。なんて説明しようかな。人間界にいる時は目に見えない縛りがあるんだよね。怪異が好き勝手できないように。喋れないこともないけど、すごく疲れる。こっちの世界では割となんでも出来るんだ。あの特徴的な声は自然体というか、う-ん、家族と喋るときはあっちだなぁ。」

八千代も意識したことがないのか、自分自身のことを不思議そうに話す。

「ポポポポポポ!!」

1階から八千代の母さんの声が聞こえた。
何かあったんだろうか。
「はぁ-い、今行くから」
八千代が立ち上がり扉の方へ向かう。

「・・・お母さんなんだって?」
「ん?洗濯物を2階に上げろだって」

……めちゃくちゃ普通のことだった。
けど俺はそれが羨ましい。

八千代が洗濯物を抱え戻ってくる。結構な量だ。
前が見えないのか少しフラフラしてる。

「それにしても家に居たのが母さんだけで良かった~。」
洗濯物を床に降ろしながら八千代が言う。
「なんで?」
「・・・妹がいるんだけど、あの子は大騒ぎするから。まだ小さいから仕方ないんだけど…。ちょうど夏希と同じくらいの身長かな?」
八千代は俺の頭に手を当て、考え込んでいる。
きっと妹と俺を頭の中で比べているのだろう。
妹……いたんだな。だから長男坊なのか。
最後の身長の話しはマジで余計だったけど、
俺の不機嫌なオ-ラを感じとったのか、八千代はすぐに謝ってきた。
悪気がないのが分かっているので怒れない。
今日の俺はダメだ。なんかすごくダサい。

俺は足を組み換え、窓からの景色を眺める。
周りには木がまばらにあり、田んぼが見えた。
まだ稲は植えていないが、水はしっかりと張っているのが見えた。
こっちの世界でも米は大事なんだな。
八千代は洗濯物を戸棚に片付けている。

どれくらい経っただろうか。
気が付くと日が落ちていた。
空は薄い青から赤にグラデーションになっている。
風鈴が揺れる。光に反射してキラキラしていた。
俺のばあちゃんとやらは家に帰ってんのかな。

「そろそろ帰るわ」
俺はぽつりと独り言のように呟いく。

「え、あぁ。もう帰っちゃうの?」

八千代が手を止めこちらを振り向いた。
「おう」
結構いい時間だしな。あんま居ても迷惑だろ。
八千代の母さんにも気を遣わせたくない。

八千代と一緒に部屋を出て、1階に降りる。
軽く挨拶を済ます。八千代の母さんは優しく微笑み、俺に何か言う。多分また来てねとかありがとうとかそういうニュアンスだった。
八千代に聞いてもよかったけどなんだか元気がない。
どこか具合が悪いんだろうかと思ったがそうでもないみたいだ。

八千代が少し前を歩き。俺が斜め後ろを歩く。
来るときと同じだ。
手は繋いでないけど。
あっという間にあの用水路につく。
やっぱりここを通るときは手を繋がりないといけないらしく八千代から手を差し出してきた。
「・・・目瞑っててね」
八千代が静かに言う。
危ねぇ、忘れるとこだった。

チャプ……チャプ……
水が冷たい。
けどそれが丁度よかった。
日が落ちても案外蒸し暑くて、体温を下げたかったから。
橋を抜ける。
相変わらず腰が痛い。ポキポキと音が鳴る。
普段身体を動かさないせいだろうか。
とにかく明日は筋肉痛だ。
「んじゃ、ありがとな。色々世話になったわ。」
「・・・・・・」
「どうした?」
「・・・・・・てね」
「また来てね」
八千代は気まづそうな顔をしている。
?なんでそんな顔するんだ。
「怒ってるよね。身長のこと。俺、無神経だったかも。」
「ハアアア!?」
どうやら俺が怒っていると思っていたらしい。
「ちげーよ!!!怒ってねえし!わざわざ蒸し返すなよ!」
「だって夏希あのあと喋らなくなったし、」
「お前も喋ってなかっただろうが!!」
「嘘だ!帰るのもはやかったもん!」
「夕方になったらばあちゃんが帰っくるってお前が言っただろ?!」
「・・・」
「・・・」
「・・・とにかく身長のこと、気にしてねえから。」
八千代は安堵の表情を浮かべる。
嘘だ。
気にしてない訳じゃない。けどこの勘違い地獄から抜け出すにはコレが正解だ。
「・・・まぁ、なんだ。俺はよそ者で知り合いも居ねえ。どうせ暇だから付き合ってやるよ。」
「!!!」
「ポポポポポポ!!!」
あれ?
八千代の喋り方が……
どうやら疲れたらしく喋り方が元に戻ったらしい。
それでもコイツの顔から感情は読み取れる。
嬉しくて堪らないって顔だ。



夏は長い。
生憎まだ始まったばかりだ。
こうして不自然な俺達の日常が幕を開けた。