きらてん!~歌い手とバレて、学校イチのモテメンに告白されました~


 萌は編集も防音室の中ですることにしている。外の音を遮断して集中できるこの空間が落ち着くのだ。ただ、それでも作業が進まないこともある。この日も週末に公開しようと思っている『歌ってみた』動画のショートバージョンの編集をしていたのだが、上手く尺がはまらなくて、萌は一通り唸ってからノートパソコンを片手に部屋を出た。
「叔父さん、今暇ー?」
 丈人の部屋のドアをノックしながら声を掛けると中から、暇じゃない、という返事がくる。それでも萌はドアを開けて部屋へと入った。
「萌、おれ仕事中……」
「今さ、編集してたんだけど尺合わなくて」
「うん、話を聞く気はないんだな……見せてみろよ」
 デスクに向かっていた丈人がため息を吐きながら仕事の手を止め、座っていた椅子ごと萌に向き合った。萌が満足気に口角を引き上げ、丈人にノートパソコンを渡す。
「……最後に告知入れたらいいんじゃないか? 何月何日何時ロングバージョン公開、みたいなやつ」
「そっか。それでやってみる」
 萌が頷くと、丈人が優しく頷き返してから、ところで、と笑顔を向けた。
「最近学校は?」
 この叔父は毎日聞いても聞き足りないのだろう。それだけ萌を心配しているということだ。萌は丈人が安心するように、現状維持、と答えてから、ふと、煌輝のことを思い出した。
「……って言いたいところだけど、今日ちょっと絡まれた」
 萌の言葉を聞いて、丈人の目がすっと眇められた。絡まれた? と低く聞かれ萌は、たいしたことじゃないよ、と慌てて言葉を繋いだ。
「バイト先で僕を認知したみたいで、それから昼休みにわざわざ僕のところへ来て、連絡先交換しようって言われて」
「……それは絡まれてるのではなく、友達になりたいだけ、では?」
 なんだそんなことか、と丈人が大きく息を吐く。その反応を見て萌が、違うよ、と唇を尖らせた。
「向こうは陽キャのモテメンなんだよ。僕とは生きてる次元が違うんだから」
「次元って、同じ高校生だろ?」
「それでも……まだ、友達は作りたくない」
 萌が本音を漏らす。今はまだ、一人でいることの方が安全で安心だと感じる。平和に過ごせるのなら、現実世界ではこれ以上の人間関係は要らない。
「……まあ、萌のことだから、萌に任せるよ。それより、この実写動画、ホントに顔だけスタンプで隠れてるだけ、なんだな。大丈夫か?」
 丈人が話題を変えるように手元のパソコン画面をもう一度見やる。
 今回は上半身のみだが、顔まで入れて撮影し、後から編集で顔の部分だけアイコンのスタンプで隠している。首から腹くらいと手が見える程度だ。
「大丈夫だよ。どこにでもいる感じだし……そもそも、僕自身に興味ある奴なんていないよ」
 心配しすぎ、と萌は丈人の眉の下がった顔を見て笑った。しばらくそれを見ていた丈人が小さくため息を吐いてからノートパソコンを萌に戻す。
「これは萌の活動だから、おれは助言程度しかしないけど……ちょっとした気の緩みからトラブルになることもあるから気をつけろよ」
 じゃあ仕事に戻るよ、と丈人が椅子を回転させパソコン画面に向き合う。萌は丈人の言葉に頷いて部屋を出ていった。
「気の緩み、なあ……」
 緩んでなくても突然災厄はやってくることを萌は知っている。まさか前日まで普通に話していた同級生にからかわれるなんて思っていなかったし、いじめにまで発展すると思っていなかった。ネットの世界より現実世界の方がよほど気を付けるべきだと思いながら、萌は自室へと戻った。