きらてん!~歌い手とバレて、学校イチのモテメンに告白されました~

「あ、それアモウって読むんだ。もえちゃんだよね?」
「……きざし、です」
 読みは全く違うが漢字でのフルネームは知っているらしい。
 驚いたまま煌輝を見ていると、煌輝の目がまっすぐに萌の顔に注がれた。今は前髪を上げているから、きっと萌の顔はよく見えているはずで、煌輝のようなイケメンにまじまじと見られるような顔を持ち合わせていない萌は、すぐに顔を隠すようにうつむいた。なのに視線はまだ自分に向いているようだ。触れられたわけでもないのに額が熱い。
「煌輝、知り合い?」
 当然萌は驚いたが、同じように周りにいた生徒たちも驚いたようだ。煌輝に向けてそんな言葉が飛んできた。
「え、このダサ眼鏡くんと?」
「煌輝、中学から一緒の私の下の名前知らなかったくせに、ただの店員のは知ってるの?」
 周りの声が、次第に萌に向かう矢に変わる。きっとこのまま萌をネタに笑いたいのだろうというお決まりのパターンが見えて、萌は再び頭を下げた。
「失礼します」
 それだけ言うと、萌はすぐにそのテーブルを離れた。待って、という言葉が聞こえた気がしたが、それも無視してすぐにカウンターの内側へと入る。
 その後からゆっくりと戻ってきた河下が萌に微笑みかけて、隣に並んで立った。
「知り合い?」
「……同じ学校の人たちです」
「あの子、天羽くんの名前知ってたね」
 ぐっと唇を噛んで両手をぎゅっと握っている萌に、河下がいつもよりも優しく話す。きっと萌の気持ちを落ち着けようとしてくれているのだろう。河下のこうした気遣いには本当に感謝している。
「どうして知ってるのか、分からないです。あいつ、学校で一番なんじゃないかっていうくらいモテるから……僕なんて陰キャ、眼中にないと思ってました」
 同じクラスで出席番号も並んでいるが、煌輝にとっての自分はモブ一号とかそのくらいの認識だと、萌は思っていた。
「確かに彼と天羽くんとは所属グループが違う感じがするけど。天羽くんは学校でも一人で物静かに過ごしてるんだ?」
 一人で物静か、と言葉は柔らかくしてくれているが、要はぼっちの陰キャなのかと聞いているのだろう。萌は否定する要素などなく、素直に頷いた。
「話をするのは好き、なんですけど……今は一人でいる方が楽で」
 誰かと話すようになって、また苛められるきっかけを作ってしまうのが怖い。だったら初めから一人で居た方が十分幸せに高校生活を送れると思っている。
「確かに、天羽くん、僕とはよく話してくれるよね。僕って、特別?」
 河下が笑顔を向け、萌の目を見つめ、緊張したままの手に触れた。優しさからの行為だろうと思うとその手は振りほどけなくて、萌は困ったように河下から視線を逸らし、少し考えた。
 学校でもバイト先でもこんなに話をする人は河下しかいないのは明らかだ。丈人とも毎日会話するが、彼は叔父で家族だから除外するのなら、河下と一番話していることになる。
「まあ……一番、話してるかもしれないです」
「そっか。天羽くんの特別か。いいね、嬉しい」
 河下が本当に嬉しそうな顔をするので、萌はその場で、特別とは少し違う、という言葉は言えずに飲み込んでしまった。