充から送られてきた住所を頼りに煌輝の家にたどり着いた萌は、そのドアの前で大きく呼吸を繰り返した。『井瀬』と書かれた表札を見上げ、萌は震えそうになる指を一度握ってから、そっとインターホンに触れた。
すぐ傍の道路から聞こえる車の音が一瞬止んで、風が木々を揺らす音が萌の耳に届く。萌の呼吸と心拍の音がやたら大きく聞こえたその時、インターホンから『はい』と男性の声がして、萌は背筋を伸ばして両手を握り込んだ。
「あ、の……僕、こ、煌輝くんのクラスメイトで、天羽と、いいます……あのっ……」
『天羽くん?』
煌輝によく似た声が聞こえてきて、萌は口を開いたまま固まる。少しの沈黙の後、待ってて、と更に聞こえ、玄関のドアの鍵が開く音が聞こえた。
「久しぶり、煌輝に会いに来てくれたんだよね?」
ドアが開いて顔を出したのは煌輝の兄だった。萌はほっと息を吐いてからゆっくりと頷いて彼に視線を向けた。
「煌輝に会わせてもらえませんか?」
萌がぎゅっとシャツの裾を握りしめる。煌輝の兄は優しく頷いてから、でも、と口を開いた。
「どこまで知ってる?」
「え……? あの、やっぱり何かあったんですか?」
萌は慌てて自身のスマホを取り出した。それから煌輝とのメッセージの画面を開く。
「……今日、会う約束してたのに、突然、会えないって言われたんです」
『もう会えない。ごめん』――あれから時間が経ったのに、今見ても体温が下がっていくような苦しさを覚える。煌輝の兄にスマホの画面を見せ、萌は言葉を繋いだ。
「ただ会いたくなくなっただけなら、ごめんなんて言わないですよね。好きだから会えないなんて、きっと言わないと思って……ここまで来ちゃいました」
萌が眉を下げて、ごめんなさい、と謝る。けれど煌輝の兄は、微笑んでから萌の手をそっと取った。
「オレがドア開けた時に言ったこと、全然聞いてなかったでしょ」
「え?」
「煌輝に会いに来てくれたんだよねって、言ったよ。こんな怪我してまで会いに来てくれた子を帰すわけないよ」
転んだの? と笑う煌輝の兄に、萌は、ちょっと、と苦く笑う。
「天羽くんは転んでも立ち上がれるんだな。煌輝も引き上げてくれない?」
萌がその言葉を聞いて首を傾げる。煌輝の兄は眉を下げて更に口を開いた。
「この間のオーディションの一次選考の不合格通知が来て……オレも姉ちゃんも、家族もバンドメンバーもさんざん、余裕とか絶対合格とか言ったせいもあって落ち込んで、部屋から出てこないんだ」
「不、合格……? え、煌輝が、ですか……?」
萌が目を丸くすると、煌輝の兄が優しく微笑んだ。
「天羽くんも信じてくれてたんだね。まあ、多分……それで会えないって言ってるのかも。部屋まで案内するから、話してみてくれない?」
上がって、と煌輝の兄が萌を中へと通す。萌はその言葉に頷いてから、傷ついているだろう煌輝を想像して、シャツの胸の部分をぎゅっと握りしめた。
すぐ傍の道路から聞こえる車の音が一瞬止んで、風が木々を揺らす音が萌の耳に届く。萌の呼吸と心拍の音がやたら大きく聞こえたその時、インターホンから『はい』と男性の声がして、萌は背筋を伸ばして両手を握り込んだ。
「あ、の……僕、こ、煌輝くんのクラスメイトで、天羽と、いいます……あのっ……」
『天羽くん?』
煌輝によく似た声が聞こえてきて、萌は口を開いたまま固まる。少しの沈黙の後、待ってて、と更に聞こえ、玄関のドアの鍵が開く音が聞こえた。
「久しぶり、煌輝に会いに来てくれたんだよね?」
ドアが開いて顔を出したのは煌輝の兄だった。萌はほっと息を吐いてからゆっくりと頷いて彼に視線を向けた。
「煌輝に会わせてもらえませんか?」
萌がぎゅっとシャツの裾を握りしめる。煌輝の兄は優しく頷いてから、でも、と口を開いた。
「どこまで知ってる?」
「え……? あの、やっぱり何かあったんですか?」
萌は慌てて自身のスマホを取り出した。それから煌輝とのメッセージの画面を開く。
「……今日、会う約束してたのに、突然、会えないって言われたんです」
『もう会えない。ごめん』――あれから時間が経ったのに、今見ても体温が下がっていくような苦しさを覚える。煌輝の兄にスマホの画面を見せ、萌は言葉を繋いだ。
「ただ会いたくなくなっただけなら、ごめんなんて言わないですよね。好きだから会えないなんて、きっと言わないと思って……ここまで来ちゃいました」
萌が眉を下げて、ごめんなさい、と謝る。けれど煌輝の兄は、微笑んでから萌の手をそっと取った。
「オレがドア開けた時に言ったこと、全然聞いてなかったでしょ」
「え?」
「煌輝に会いに来てくれたんだよねって、言ったよ。こんな怪我してまで会いに来てくれた子を帰すわけないよ」
転んだの? と笑う煌輝の兄に、萌は、ちょっと、と苦く笑う。
「天羽くんは転んでも立ち上がれるんだな。煌輝も引き上げてくれない?」
萌がその言葉を聞いて首を傾げる。煌輝の兄は眉を下げて更に口を開いた。
「この間のオーディションの一次選考の不合格通知が来て……オレも姉ちゃんも、家族もバンドメンバーもさんざん、余裕とか絶対合格とか言ったせいもあって落ち込んで、部屋から出てこないんだ」
「不、合格……? え、煌輝が、ですか……?」
萌が目を丸くすると、煌輝の兄が優しく微笑んだ。
「天羽くんも信じてくれてたんだね。まあ、多分……それで会えないって言ってるのかも。部屋まで案内するから、話してみてくれない?」
上がって、と煌輝の兄が萌を中へと通す。萌はその言葉に頷いてから、傷ついているだろう煌輝を想像して、シャツの胸の部分をぎゅっと握りしめた。


