「その反応、見たことある画像だった? 萌くんと同級生っていう女の子が店で、この彼が振り向いてくれないって大声でぼやいてたから、『この画像を使ったらいいよ』ってエアドロしてあげたんだよ。萌くんたち揉めてるっぽかったから、いい感じに使ってくれたんだなって喜んでたのに……どうしてまた、会いに来たりしてるの?」
スマホを持つ河下の手に力が入る。声にも少し力が入っているような気がして、萌が河下から距離を取るように後退りをして顔を上げた。
「僕のこと、つけてたのも……河下さん、ですか……?」
萌が怖々聞くと、河下は柔らかい笑顔で、つけてないよ、と首を振った。この人ではなかったか、とほっとした萌を見て、河下が更に言葉を足す。
「見守ってたんだよ。悪い虫に食べられたら困るだろう?」
河下が微笑む。その笑顔を見ていると嫌悪で肌が粟立った。
「……煌輝は悪い虫なんかじゃないです」
萌が震えそうになる足に力を入れ、河下に眇めた目で向き合った。河下はそんな萌を見て、可愛いなあ、と目を細める。
「強がるのはいいけど、この画像は放置でいいの? 萌くんの選択しだいで、僕のスマホの中の画像も、女の子に渡した画像も全部消してあげるよ」
「選択、ですか?」
「そう。ただ、僕と付き合うって言えばいいだけ。本当はこんな手は使いたくなかったんだけど、しょうがないよね。萌くん、全然僕のものにならないんだから」
河下の言葉を聞いて、萌の足元からぞわぞわとした寒気が全身を駆けていった。もう河下が同じ人間だとは思えない。
「い、や、です……」
声が震える。首を大きく振る萌を見て、河下が眉を下げた。
「僕ね、君たちが手を繋いでるところの写真も持ってるんだよ。それも、あの子に渡そうか?」
河下が萌に近づき、手を伸ばした時だった。
「萌に触らないで!」
河下と萌の間に割って入ったのは煌輝だった。萌を守るように河下の前に立ちはだかっている。
「煌輝……?」
「ごめん。やっぱりもう少し萌と一緒にいたくて、翔吾と充と別れたあと、追いかけて来ちゃった」
こちらを振り返り眉を下げて微笑む煌輝を見て、恐怖で凍りついていた心がゆっくりと溶けていく。
「……君の方こそ、萌くんのこと、つけてたんじゃない?」
目の前からそんな声が届いて萌は煌輝の体からそっと顔を出した。煌輝に鋭い視線を向ける河下がいて、萌が視線を逸らす。
「俺と萌は付き合ってるので、わざわざストーキングする理由がないです。それより……萌が怯えるような、何をしてたんですか?」
煌輝が河下にまっすぐ視線を合わせながら後ろに手を回す。萌がそれに指を伸ばすと、煌輝がしっかりとその手を繋いでくれた。
強い力で包まれる手から安心する温度が伝わってくる。足の震えもいつの間にか止まっていた萌は、対峙する二人に視線を向けた。
「萌くんに、僕と付き合わないかって話していただけだよ」
河下が表情を柔らかく変え、萌に視線を向ける。煌輝が少しだけ振り返り、ホント? と聞いた。
「……付き合えば、煌輝との写真を消してくれるって……」
「俺との写真?」
「前に、手を繋いで帰った時の……」
萌が素直に話すと、そっか、と煌輝が微笑んだ。それから河下に向き直る。
「それを拡散するとか言ったんですか? いいですよ。俺と萌が付き合ってるって、世界に広げてくれて大丈夫です」
ゆっくりと静かな声で煌輝が河下に告げる。驚いたのは萌の方だった。繋いでいる手をぐいと引いて、だめだよ、と訴える。
「それは、煌輝がずっと隠してきたことだろ?」
振り返った煌輝を見上げると、その顔はとても穏やかに微笑んでいた。
「萌を失うくらいなら、そんな秘密拡散されてもいい。一番大事なのは萌だよ」
煌輝の言葉は萌の胸に染み込んでいくようだった。じわりと視界が潤む。
「最悪」
煌輝の言葉だけを聞いていた萌に、大きなため息と共にそんな声が届いて、煌輝と二人、河下に向き直る。
「萌くんが可愛いことは、僕だけが知ってれば良かったのに……あの時、ピンなんか貸して顔晒さなきゃ良かったな」
河下がもう一度ため息を吐く。煌輝はそれを聞いてから、違います、とまっすぐに河下を見やった。
「確かに萌は可愛いけど、それだけじゃない。萌は、自分の芯があって強くて、でも繊細で弱くて……そういう萌だから好きになったんです」
そんなふうに思ってくれているなんて知らなかった。好きになった、その言葉が萌を優しく包み込む。
「……今日は帰るよ。またね、萌くん」
冷めたような目をした河下が、表情を和らげてから踵を返す。萌は安堵の息を吐いて煌輝の手を握っていた力を緩めた。
けれどその分、煌輝がぎゅっと掴んで萌に体ごと向き合った。
「萌、何があったのかちゃんと話して」
その真摯な目に、萌は頷くことしか出来なかった。
スマホを持つ河下の手に力が入る。声にも少し力が入っているような気がして、萌が河下から距離を取るように後退りをして顔を上げた。
「僕のこと、つけてたのも……河下さん、ですか……?」
萌が怖々聞くと、河下は柔らかい笑顔で、つけてないよ、と首を振った。この人ではなかったか、とほっとした萌を見て、河下が更に言葉を足す。
「見守ってたんだよ。悪い虫に食べられたら困るだろう?」
河下が微笑む。その笑顔を見ていると嫌悪で肌が粟立った。
「……煌輝は悪い虫なんかじゃないです」
萌が震えそうになる足に力を入れ、河下に眇めた目で向き合った。河下はそんな萌を見て、可愛いなあ、と目を細める。
「強がるのはいいけど、この画像は放置でいいの? 萌くんの選択しだいで、僕のスマホの中の画像も、女の子に渡した画像も全部消してあげるよ」
「選択、ですか?」
「そう。ただ、僕と付き合うって言えばいいだけ。本当はこんな手は使いたくなかったんだけど、しょうがないよね。萌くん、全然僕のものにならないんだから」
河下の言葉を聞いて、萌の足元からぞわぞわとした寒気が全身を駆けていった。もう河下が同じ人間だとは思えない。
「い、や、です……」
声が震える。首を大きく振る萌を見て、河下が眉を下げた。
「僕ね、君たちが手を繋いでるところの写真も持ってるんだよ。それも、あの子に渡そうか?」
河下が萌に近づき、手を伸ばした時だった。
「萌に触らないで!」
河下と萌の間に割って入ったのは煌輝だった。萌を守るように河下の前に立ちはだかっている。
「煌輝……?」
「ごめん。やっぱりもう少し萌と一緒にいたくて、翔吾と充と別れたあと、追いかけて来ちゃった」
こちらを振り返り眉を下げて微笑む煌輝を見て、恐怖で凍りついていた心がゆっくりと溶けていく。
「……君の方こそ、萌くんのこと、つけてたんじゃない?」
目の前からそんな声が届いて萌は煌輝の体からそっと顔を出した。煌輝に鋭い視線を向ける河下がいて、萌が視線を逸らす。
「俺と萌は付き合ってるので、わざわざストーキングする理由がないです。それより……萌が怯えるような、何をしてたんですか?」
煌輝が河下にまっすぐ視線を合わせながら後ろに手を回す。萌がそれに指を伸ばすと、煌輝がしっかりとその手を繋いでくれた。
強い力で包まれる手から安心する温度が伝わってくる。足の震えもいつの間にか止まっていた萌は、対峙する二人に視線を向けた。
「萌くんに、僕と付き合わないかって話していただけだよ」
河下が表情を柔らかく変え、萌に視線を向ける。煌輝が少しだけ振り返り、ホント? と聞いた。
「……付き合えば、煌輝との写真を消してくれるって……」
「俺との写真?」
「前に、手を繋いで帰った時の……」
萌が素直に話すと、そっか、と煌輝が微笑んだ。それから河下に向き直る。
「それを拡散するとか言ったんですか? いいですよ。俺と萌が付き合ってるって、世界に広げてくれて大丈夫です」
ゆっくりと静かな声で煌輝が河下に告げる。驚いたのは萌の方だった。繋いでいる手をぐいと引いて、だめだよ、と訴える。
「それは、煌輝がずっと隠してきたことだろ?」
振り返った煌輝を見上げると、その顔はとても穏やかに微笑んでいた。
「萌を失うくらいなら、そんな秘密拡散されてもいい。一番大事なのは萌だよ」
煌輝の言葉は萌の胸に染み込んでいくようだった。じわりと視界が潤む。
「最悪」
煌輝の言葉だけを聞いていた萌に、大きなため息と共にそんな声が届いて、煌輝と二人、河下に向き直る。
「萌くんが可愛いことは、僕だけが知ってれば良かったのに……あの時、ピンなんか貸して顔晒さなきゃ良かったな」
河下がもう一度ため息を吐く。煌輝はそれを聞いてから、違います、とまっすぐに河下を見やった。
「確かに萌は可愛いけど、それだけじゃない。萌は、自分の芯があって強くて、でも繊細で弱くて……そういう萌だから好きになったんです」
そんなふうに思ってくれているなんて知らなかった。好きになった、その言葉が萌を優しく包み込む。
「……今日は帰るよ。またね、萌くん」
冷めたような目をした河下が、表情を和らげてから踵を返す。萌は安堵の息を吐いて煌輝の手を握っていた力を緩めた。
けれどその分、煌輝がぎゅっと掴んで萌に体ごと向き合った。
「萌、何があったのかちゃんと話して」
その真摯な目に、萌は頷くことしか出来なかった。


