「家まで送るよ」
煌輝が、歩き? 電車? と駅の方向を指さす。萌は、歩き、と答え、駅とは逆の方向へと歩き出した。
「ここ、家から近いんだ。徒歩圏内だからバ先ここにした」
「そうなんだ。ていうか、前から思ってたけど、バイトして偉いよな」
煌輝が萌の隣を歩き、歩調を合わせる。萌とでは足の長さが違うので、とてもゆっくり歩いてくれているのだろう。つま先が同じ幅で地面に着くたびに温かい気持ちが胸に流れ込んでくる気がした。
「偉くはないよ。別に家にお金入れてるわけじゃなくて、ただ機材が欲しくて稼いでるだけだから。今は新しいマイクが欲しくて」
初めて誰かに欲しいものを話した。丈人に言うと簡単に買ってきてしまうので、何が欲しいかは話したことはなかった。煌輝の反応はとても気になる。
「やっぱり偉いよ。マイクって高いらしいし、それを自分で買おうってすごい。俺なら親にねだるな」
煌輝の言葉を聞いて、心が満たされるどころか、溢れてしまって、萌の目尻が少し潤んでしまう。
「そのマイク買えたら、一緒に歌う?」
「いいね! ていうか、それなら今のマイクでもいいから一緒に歌いたい。この間一緒に歌ったの、ホントありえないくらい最高だったから」
夜道なのに見上げた瞳は光を帯びていて、それを見るだけで萌も煌輝と一緒に歌った時のことを思い出した。
「うん、最高だった!」
萌が笑顔で煌輝を見上げると、煌輝が不意に萌の肩を掴んで引き寄せる。驚きで目をみはる萌のすぐ傍を自転車が通り過ぎていった。
「気づかなかった……ありがとう」
「いや、俺が初めからこっち側歩いてれば良かったんだ」
煌輝が萌と位置を入れ替えるように車道側に立ち、萌の手を掴んだ。温かいその手に包まれ、萌が煌輝を見上げる。
「……迷子にでもなると思われてる?」
声が裏返りそうになりながら、それでも冗談めかして聞くと、煌輝は、ぎゅっと萌の手を握り直してから、そうじゃないけど、と萌を見つめた。
「今、周りに誰もいないし……このままじゃ、ダメ、かな?」
「う、うん……いいよ」
萌が俯いて頷く。答える声は少し掠れてしまった。
繋いだ手がじわりと体温を上げる。繋いでない左手は冷たくなっているのに、煌輝と触れている手は汗ばんでいるようだった。
気持ち悪くないかなと思って煌輝を見上げると、すぐに目が合う。
「な、に……?」
「いや、今俺手汗すごいなと思って……嫌じゃない?」
「ううん、僕も同じだから」
緊張しちゃうよね、と笑うと、煌輝はぴたりと足を止めた。それからまっすぐに萌を見つめる。
「天羽……萌って、呼んでいい?」
いつもよりも声が硬い。それでも目を逸らすことのない煌輝の姿に、萌もまた目を逸らすことが出来なかった。
「……うん。じゃあ、ぼ、僕も……煌輝って呼んでいい?」
煌輝、と名前を口にしただけで鼓動が全身に響いているような感覚がした。
「もちろん! たくさん呼んで欲しい……き、萌になら」
表情を明るくして笑顔になった煌輝だが、すぐに頬を染めて俯く。萌はそんな煌輝を見て、繋いだ手に力を込めた。
「煌輝」
早速呼ぶと、煌輝が顔を上げて嬉しそうに、何? と聞く。呼んだだけ、と笑うと煌輝も同じように笑ってくれた。
「家、もっと遠かったらいいのに」
煌輝が繋いでいた手を一度解いて、今度は指を絡めて繋ぎ直す。
もっと触れていたいと思うことなんて、人生で初めてのことだ。萌ももっと煌輝といたいと思う。けれど、萌の家はもうすぐそこだった。
「……明日もこの先も会いたい時に会えるよ」
こうしてゆっくりと煌輝を知って、自分の中で気づかないうちに育っていた気持ちは、実をつけて萌の元にそれを落とそうとしている。
煌輝が好きだーー
ようやく気持ちの正体が分かり、萌が笑顔で告げると煌輝は、うん、と頷いてから萌と同じ歩幅で歩き出した。
煌輝が、歩き? 電車? と駅の方向を指さす。萌は、歩き、と答え、駅とは逆の方向へと歩き出した。
「ここ、家から近いんだ。徒歩圏内だからバ先ここにした」
「そうなんだ。ていうか、前から思ってたけど、バイトして偉いよな」
煌輝が萌の隣を歩き、歩調を合わせる。萌とでは足の長さが違うので、とてもゆっくり歩いてくれているのだろう。つま先が同じ幅で地面に着くたびに温かい気持ちが胸に流れ込んでくる気がした。
「偉くはないよ。別に家にお金入れてるわけじゃなくて、ただ機材が欲しくて稼いでるだけだから。今は新しいマイクが欲しくて」
初めて誰かに欲しいものを話した。丈人に言うと簡単に買ってきてしまうので、何が欲しいかは話したことはなかった。煌輝の反応はとても気になる。
「やっぱり偉いよ。マイクって高いらしいし、それを自分で買おうってすごい。俺なら親にねだるな」
煌輝の言葉を聞いて、心が満たされるどころか、溢れてしまって、萌の目尻が少し潤んでしまう。
「そのマイク買えたら、一緒に歌う?」
「いいね! ていうか、それなら今のマイクでもいいから一緒に歌いたい。この間一緒に歌ったの、ホントありえないくらい最高だったから」
夜道なのに見上げた瞳は光を帯びていて、それを見るだけで萌も煌輝と一緒に歌った時のことを思い出した。
「うん、最高だった!」
萌が笑顔で煌輝を見上げると、煌輝が不意に萌の肩を掴んで引き寄せる。驚きで目をみはる萌のすぐ傍を自転車が通り過ぎていった。
「気づかなかった……ありがとう」
「いや、俺が初めからこっち側歩いてれば良かったんだ」
煌輝が萌と位置を入れ替えるように車道側に立ち、萌の手を掴んだ。温かいその手に包まれ、萌が煌輝を見上げる。
「……迷子にでもなると思われてる?」
声が裏返りそうになりながら、それでも冗談めかして聞くと、煌輝は、ぎゅっと萌の手を握り直してから、そうじゃないけど、と萌を見つめた。
「今、周りに誰もいないし……このままじゃ、ダメ、かな?」
「う、うん……いいよ」
萌が俯いて頷く。答える声は少し掠れてしまった。
繋いだ手がじわりと体温を上げる。繋いでない左手は冷たくなっているのに、煌輝と触れている手は汗ばんでいるようだった。
気持ち悪くないかなと思って煌輝を見上げると、すぐに目が合う。
「な、に……?」
「いや、今俺手汗すごいなと思って……嫌じゃない?」
「ううん、僕も同じだから」
緊張しちゃうよね、と笑うと、煌輝はぴたりと足を止めた。それからまっすぐに萌を見つめる。
「天羽……萌って、呼んでいい?」
いつもよりも声が硬い。それでも目を逸らすことのない煌輝の姿に、萌もまた目を逸らすことが出来なかった。
「……うん。じゃあ、ぼ、僕も……煌輝って呼んでいい?」
煌輝、と名前を口にしただけで鼓動が全身に響いているような感覚がした。
「もちろん! たくさん呼んで欲しい……き、萌になら」
表情を明るくして笑顔になった煌輝だが、すぐに頬を染めて俯く。萌はそんな煌輝を見て、繋いだ手に力を込めた。
「煌輝」
早速呼ぶと、煌輝が顔を上げて嬉しそうに、何? と聞く。呼んだだけ、と笑うと煌輝も同じように笑ってくれた。
「家、もっと遠かったらいいのに」
煌輝が繋いでいた手を一度解いて、今度は指を絡めて繋ぎ直す。
もっと触れていたいと思うことなんて、人生で初めてのことだ。萌ももっと煌輝といたいと思う。けれど、萌の家はもうすぐそこだった。
「……明日もこの先も会いたい時に会えるよ」
こうしてゆっくりと煌輝を知って、自分の中で気づかないうちに育っていた気持ちは、実をつけて萌の元にそれを落とそうとしている。
煌輝が好きだーー
ようやく気持ちの正体が分かり、萌が笑顔で告げると煌輝は、うん、と頷いてから萌と同じ歩幅で歩き出した。


