「え?」
聞き返す萌に煌輝がスマホを取り出し、その画面をこちらに向ける。そこには音楽配信サイトで配信されている曲のジャケットが映っていた。それは萌が一番初めに『歌ってみた』で歌った歌だった。人気のあるアーティストではあるが、初期のアルバムのラストに入っている曲で、知っている人は多くない。でもその歌詞は、この世界に一人も信じられる人がいないと絶望していた萌に寄り添ってくれるもので、これなら歌えるかもしれないと思ったのだ。
「……『この世界が君を傷つけるものなら、僕が全部壊すから』ってところ、天羽とならハモれそうじゃない?」
煌輝が口の端を引き上げて楽しそうに笑う。それを見て萌が同じように微笑み、頷いた。
「うん、やる」
煌輝が一緒に活動している仲間と分かっていてもさっき会った人たちの前で歌うのは、全く怖くない訳じゃない。でも、それよりも煌輝と一緒に歌ってみたいという気持ちが勝ってしまった。
「ホント?」
煌輝がバネのように立ち上がり、瞳を輝かせる。萌がもう一度頷くと、煌輝はマイクをもう一本セットし、萌に手渡した。冷たいマイクを握ったせいか、萌の指先が少し冷たくなっている。萌は一度大きく呼吸をしてから、煌輝に視線を向けて頷いた。
何度も聞いたイントロが萌の後ろで響き、萌は肺いっぱいに空気を送り込むように大きく息を吸い込んだ。
マイクに自分の声を乗せる瞬間は、いつも喉の奥が震えそうになる。それを押さえ込むように腹に力を入れて声帯を震わせると、不思議と思った通りの声が出るのだ。
萌は歌いながら隣を見やった。歌い出しを萌に譲った煌輝は、マイクを持ったままこちらに笑顔を向けている。その目を見つめて頷くと、煌輝が大きく息を吸い込んだ。
萌の声が高めの中性的な声なら、煌輝の声は男性的な色気のある声だ。重なると心地よい音程になって、遠くまで届きそうな声になる。
寒くないのに肌が震えて、萌は煌輝を見つめた。煌輝もこちらを見つめて目を細める。その瞬間、シャボン玉のような薄い膜の中に二人だけでいるような感覚がして、バンドの音が遠くに聞こえてきた。その代わり、煌輝の声が萌の中で渦巻くように響いている。
「『この世界が君を傷つけるものなら、僕が全部壊すから』」
煌輝の声が力強く、萌のファルセットを支える。混ざり合った声が遠くへと飛んでいくような不思議な感覚がして、肌の震えは未だに止まらず、曲が終わっても萌はマイクを握ったまま煌輝を見つめていた。
「天羽くんって、やっぱり『天』だよね?」
萌を包んでいたシャボン玉を割ったのは、煌輝の兄のそんな言葉だった。マイクを下ろして振り返り、え、と声にする。
これ以上の身バレはしたくない。煌輝の家族とはいえ、何を言われるか分からない。萌がぎゅっとマイクを握りしめていると、空いた手を煌輝が握った。
「兄貴、天羽を傷つけるつもりなら……」
煌輝のいつもよりも低い声がする。すぐに、違うって、と煌輝の兄が煌輝の言葉を遮る。
「そうじゃなくて。だったら煌輝を勇気づけてくれてありがとうって言おうと思って」
煌輝の兄の言葉を聞いて、萌が首を傾げる。すると隣から煌輝のため息が聞こえ、萌は顔を上げた。煌輝と目が合うと、えっとな、と煌輝は言葉を選びながら話し始めた。
聞き返す萌に煌輝がスマホを取り出し、その画面をこちらに向ける。そこには音楽配信サイトで配信されている曲のジャケットが映っていた。それは萌が一番初めに『歌ってみた』で歌った歌だった。人気のあるアーティストではあるが、初期のアルバムのラストに入っている曲で、知っている人は多くない。でもその歌詞は、この世界に一人も信じられる人がいないと絶望していた萌に寄り添ってくれるもので、これなら歌えるかもしれないと思ったのだ。
「……『この世界が君を傷つけるものなら、僕が全部壊すから』ってところ、天羽とならハモれそうじゃない?」
煌輝が口の端を引き上げて楽しそうに笑う。それを見て萌が同じように微笑み、頷いた。
「うん、やる」
煌輝が一緒に活動している仲間と分かっていてもさっき会った人たちの前で歌うのは、全く怖くない訳じゃない。でも、それよりも煌輝と一緒に歌ってみたいという気持ちが勝ってしまった。
「ホント?」
煌輝がバネのように立ち上がり、瞳を輝かせる。萌がもう一度頷くと、煌輝はマイクをもう一本セットし、萌に手渡した。冷たいマイクを握ったせいか、萌の指先が少し冷たくなっている。萌は一度大きく呼吸をしてから、煌輝に視線を向けて頷いた。
何度も聞いたイントロが萌の後ろで響き、萌は肺いっぱいに空気を送り込むように大きく息を吸い込んだ。
マイクに自分の声を乗せる瞬間は、いつも喉の奥が震えそうになる。それを押さえ込むように腹に力を入れて声帯を震わせると、不思議と思った通りの声が出るのだ。
萌は歌いながら隣を見やった。歌い出しを萌に譲った煌輝は、マイクを持ったままこちらに笑顔を向けている。その目を見つめて頷くと、煌輝が大きく息を吸い込んだ。
萌の声が高めの中性的な声なら、煌輝の声は男性的な色気のある声だ。重なると心地よい音程になって、遠くまで届きそうな声になる。
寒くないのに肌が震えて、萌は煌輝を見つめた。煌輝もこちらを見つめて目を細める。その瞬間、シャボン玉のような薄い膜の中に二人だけでいるような感覚がして、バンドの音が遠くに聞こえてきた。その代わり、煌輝の声が萌の中で渦巻くように響いている。
「『この世界が君を傷つけるものなら、僕が全部壊すから』」
煌輝の声が力強く、萌のファルセットを支える。混ざり合った声が遠くへと飛んでいくような不思議な感覚がして、肌の震えは未だに止まらず、曲が終わっても萌はマイクを握ったまま煌輝を見つめていた。
「天羽くんって、やっぱり『天』だよね?」
萌を包んでいたシャボン玉を割ったのは、煌輝の兄のそんな言葉だった。マイクを下ろして振り返り、え、と声にする。
これ以上の身バレはしたくない。煌輝の家族とはいえ、何を言われるか分からない。萌がぎゅっとマイクを握りしめていると、空いた手を煌輝が握った。
「兄貴、天羽を傷つけるつもりなら……」
煌輝のいつもよりも低い声がする。すぐに、違うって、と煌輝の兄が煌輝の言葉を遮る。
「そうじゃなくて。だったら煌輝を勇気づけてくれてありがとうって言おうと思って」
煌輝の兄の言葉を聞いて、萌が首を傾げる。すると隣から煌輝のため息が聞こえ、萌は顔を上げた。煌輝と目が合うと、えっとな、と煌輝は言葉を選びながら話し始めた。


