きらてん!~歌い手とバレて、学校イチのモテメンに告白されました~

 はしゃいだような声が大きく聞こえ、萌が振り返る。そこに居たのは、いつも煌輝の周りにいるクラスメイトだ。
 今まで熱かった頬から熱が引くように、全身が冷えていく。
 やっぱり、これは大掛かりないたずらなのだろうか。ここまで来てしまった萌をみんなで笑うために、彼らは来ているのだろうか。
「い、せ……」
 勝手に震える声で煌輝を呼ぶと、カウンターで商品を受け取ろうとしていた煌輝が振り返った。
「天羽? どうかした?」
 眉を下げて煌輝がこちらの顔を覗き込む。視線が合わせられない萌は指先で小さくクラスメイトたちを指した。煌輝の視線が萌の指先を辿る。
「もしか、して……待ち合わせとか、してた?」
「……ごめん、天羽。あとでたくさん謝るから、今は俺に付いてきて」
 煌輝はすぐにカップに入った飲み物をひとつ萌に手渡してから空いた方の手を取った。そのまま萌の手を引いて歩き出す。
 人の多い方を通って煌輝がシアター入口の方へと向かう。
 萌は力強い手に引かれながら、煌輝の顔を見つめた。その表情はいつもよりも硬い。
「ねえ、やっぱりあれ煌輝じゃない?」
 シアター入口を抜けて目的の劇場がある方へと歩き出した時、後ろからそんな声が聞こえた。その後も、煌輝、と呼ぶ声が聞こえたが煌輝は聞こえていないのか、聞こえないふりをしているのか反応することなく萌の手を握ったまま歩き続けた。
「席、ここだね」
 煌輝が次に振り返ったのは劇場内に着いた後だった。
 煌輝がチケットを見直してからほっと息を吐く。
「……向こう、気づいてたみたいだけど、良かったの?」
「いい。今日は天羽と過ごすって決めてるから」
 繋いだ手がぎゅっと強く握られる。その感覚で、まだ繋がれていたことに気づいて、萌は少し手を引いた。
「あ、ごめん……俺、ちょっと焦りすぎだな」
 煌輝が笑って萌の手を離す。萌がそれを見つめていると、次第にその笑顔は苦いものに変わっていき、ごめん、とまた小さくつぶやいて、煌輝は席に座った。
「そんなに謝ることないよ」
 温かくて、少し骨ばっている煌輝の手は萌の手なんか簡単に包みこんでしまうほど大きかった。余韻が残る手を萌がぎゅっと握り込む。
「……嫌じゃなかった?」
 眉を下げた煌輝が自信なさそうな弱い声で聞く。萌はそれに頷いた。
「それよりも、僕の想像が外れてたことが良かった、というか……」
 煌輝にとっては友達だろう人たちからこうして逃げてくれたということは、萌のことをバカにしようとか騙そうとか、そんなことは一切考えていないということだ。
 さっきまで冷たかった指先は、煌輝の体温を借りたのかもう温かくなっている。
「何、想像してた?」
「……違ってたからいい。井瀬は僕と遊びに来たんだって分かったから」
 少し首を傾げて聞いた煌輝に、萌は首を振って笑顔を向けた。するとそれを見ていた煌輝が少し眇めた目を向けた。
「遊びに来たんじゃなくて、デート、な……俺たち、付き合って、るんだ、し……」
 煌輝の目が次第に垂れていき、眉も下がる。言葉が小さくなったのも、周りに配慮したわけではなさそうだ。
「う、うん……そっか」
 萌が頷き、スクリーンに視線を向ける。煌輝の顔をずっと見ていたら顔が熱くなりすぎて溶けてしまうような気がしたのだ。
「ねえ、天羽、白状していい?」
「な、何……?」
 本当はからかってました、なんて言われるのかと思った萌は膝の上で手を握りしめて次に来る衝撃に備えた。
「俺、今めちゃくちゃ緊張してて、ずっと変なこと言ってる気がして……天羽、呆れてない?」
 煌輝がそっと萌の握った手に触れる。冷たいのに汗ばんでいる指先を感じて、萌の拳が解けていく。萌は、ふふ、と小さく笑ってから、ないよ、と煌輝を見やった。
「むしろ、井瀬の目的はちゃんと遂行されてると思うよ」
「目的?」
「井瀬のことを僕に知ってほしいってやつ。僕、こんなにカッコ悪い井瀬、初めて見た」
 ふふ、と笑うと、煌輝は、なにそれ、とため息を吐く。少し肩を落としたように見えた煌輝に、萌が更に言葉を足した。
「別に悪いことじゃないよ」
「いや、でも……『彼氏』にはカッコいいって思われたいから……あ、映画の後、まだ時間ある?」
 しばらく唇を尖らせていた煌輝が、何か思いついたように萌に明るい表情を見せる。萌はその問いかけに頷いた。
「うん……今日は一日空けてる」
「良かった。じゃあ、今度こそカッコいい俺を見せてあげる。映画の後、兄貴たちと合流しよう」
 煌輝が唇の端を引き上げ、微笑む。いつも見る明るい笑顔を見て、萌はどんな『カッコいい煌輝』が見れるのだろうと思いながら笑顔で頷いた。