きらてん!~歌い手とバレて、学校イチのモテメンに告白されました~

「……あり、がと……」
 助けられたことが嬉しい、なんて言われたら、謝罪ではなくてお礼のほうがいいと思った。自分で言ったくせに、頬の熱は耳や首にまで伝播しているのが分かる。
「う、うん……どう、いたしまして……」
 萌の熱は煌輝にもうつったらしい。その頬がほんのり赤くなっていた。
 急に静かになった保健室にグラウンドからだろう、ホイッスルの音が聞こえ、煌輝と二人で同時にびくりと肩を震わせてしまった。それをお互いに見て、同時に吹き出すように笑う。
「……うん、やっぱり俺、天羽と仲良くなりたい。だめかな?」
 昨日丈人が言っていたことが本当だったのだろうか。確かに今日は助けられたし、煌輝が萌をからかっている様子もない。
 でも、簡単に頷けない。
「……ホントに、それだけ?」
「それだけって?」
「だって、ほら……井瀬は僕じゃなくても友達はたくさんいるし」
 そもそも最近まで煌輝とは話したことどころか、目があったこともなかったのだ。どうして萌と仲良くなりたいのか萌には分からない。
「天羽のこと知ったのは確かに最近だよ。でも俺、天羽の近くに居たいなと思ったんだよ」
 煌輝の声が柔らかい。まだ少し赤みが残っている頬を見ていると、それが嘘には思えなかった。
「僕の近くに居ても面白いことなんてないよ?」
 傍にいることを許して、いつかやっぱりつまらなかったと言われるのは嫌だ。だったら初めから煌輝が期待する人物ではないと気づいて貰った方がいい。
「面白い、か……うんまあ、いつも廊下の端っこ歩いてるのとか、反応が小動物みたいなのとかは面白いけど……ただ、距離を縮めたいと思った人、初めてなんだよ」
 ただ距離を縮めたいーーそんなことを言われたのはこっちだって初めてだ。
 萌が言葉を探して黙っていると、煌輝が、だったら、と言葉を繋げた。
「俺の秘密を教える」
 煌輝が自身のスマホを取り出し、画面に指を滑らせる。萌はそれを見つめながら、秘密? と聞き返した。
「俺、兄貴とその仲間とバンドやってるんだ。結構真面目に歌ってるんだけど、学校の奴らにはバカにされそうで言ってないんだ」
 煌輝が差し出したスマホの画面にはステージに立つ煌輝の写真があった。黒のバックの中、青い光が煌輝だけに注がれている。煌輝の手にはマイクがあり、見たことのないほど楽しそうな笑顔をしていた。
 これが合成だとは思えない。本当に歌うことを楽しんでいると分かる。
「歌うの、好き?」
 スマホの画面を見つめたまま萌が静かに聞いた。
「好きだよ」
 すぐにはっきりとした声が返ってきて萌が顔を上げる。唇をまっすぐに結び、こちらを見つめていた。
 萌の肌がざわめく感覚がした。恐怖とは違うそれは萌が初めて感じるものだった。
「……友達、なっても、いい」
 煌輝の目をずっと見ていたら自分のなにかが変わってしまいそうな気がして、萌は目を逸らして小さく告げた。
「……うん! じゃあ、とりあえず連絡先交換しよ」
 視界の端で、スマホを持つ煌輝の手がぐっと力が入ったように見えた。再び煌輝を見やると優しい笑顔が見えて、萌は少し肩の力が抜ける。
「いいよ。意味ないメッセには返さないかもだけど」
「えー、そこはスタンプだけでも返そうよ」
「『ウザい』とかの?」
「えー、まあ、それでもいいけど」
 煌輝が眉を下げたかと思うと、すぐに笑顔になる。それにつられ、萌も笑った。
「いいんだ。じゃあ、そのスタンプ買っておく」
 萌の言葉に煌輝がまた、えー、とぼやく。でも笑顔は崩さなかった。
 その日、萌のメッセージアプリに家族以外の『ともだち』が増えることになった。