憧れの教育実習生に、脈がない!?

理科準備室の空気は、薬品の匂いと独特の静寂に包まれていた。純太は逃げ込むように机に就き、小テストの束を広げて丸付けを始める。しかし、扉を閉めたはずの背後から、不敵な足音が近づいてきた。
コウが勝手に準備室へ入り込み、純太の向かいの席にどっかと座り込んだのだ。彼は腕を組み、獲物を狙う肉食獣のような目つきで、黙々とペンを動かす純太をじっと睨みつけている。
「……まったく。」
純太はため息をつく。
「先生が認めないなら、俺はここを動きませんから」
沈黙が部屋を支配する。時計の秒針の音だけがやけに大きく聞こえる中、コウはイライラを紛らわせるように、昔からの癖である、ペン回しを始めた。指先で激しく回転するペンが、空気を切る小さな音を立てる。
グルグルと加速していくペン。しかし、苛立ちで手元が狂った。勢い余ったペンが指からすっぽ抜け、真っ直ぐ純太の顔面に向かって飛んでいく。
「あっ」
その瞬間だった。 純太の手が、思考より先に動いた。
バシッ、という鋭い音が響く。 純太は顔を上げることすらなく、空中のペンをその細い指先で正確に、かつ目にも止まらぬ速さで掴み取っていた。
そのまま純太は、重い溜息を吐きながら、全くの無意識に、あの頃と同じ「素」のトーンで口を開いてしまう。
「……だから、その危ない癖は直しなさいって、去年も言ったでしょう、コウ君。」
その言葉が落ちた瞬間、準備室の空気が凍りついた。 純太は自分が何を言ったか理解した途端、慌てて自分の口を両手で塞いだ。だが、放たれた言葉はもう取り消せない。
コウの口角が、ゆっくりと吊り上がった。