君の体温が欲しくて

雪混じりの風が窓を叩く、昼休みの長い廊下。理科準備室へと向かう純太の背後を、コウは一定の距離を保ちながら、しかし確実に追い詰めるような足取りで追っていた。ギュッ、ギュッ、と上履きが床を鳴らす音が、校舎に響く。
「……先生、いい加減にしてくださいよ。無視しないでくださーい。」
純太は一度も振り返らない。資料を抱えた腕をわずかに締め直し、事務的な速度で歩き続ける。
「君こそいい加減にして下さい。教師の後をついて回るのは、立派な迷惑行為ですよ」
純太はぴしゃりと言い放つ。
「迷惑? じゃあ去年、この村で一緒に過ごした時間も、先生にとって『迷惑』だったんですかー? あの時、一緒に大きな雪だるま、作ったじゃないですか。顔が歪んでるって、二人で笑い転げて…」
「何のことでしょうか。」
「じゃあ、あの焼きマシュマロも!? 焚き火でマシュマロ焼こうって先生が言い出したくせに、結局真っ黒な炭の塊にして。挙句の果てに、顔にススつけて『これ、まだ食べられると思いますか?』って首傾げて……」
純太の歩みが、ほんの一瞬、目に見えてよろめいた。だが、彼はすぐに姿勢を正した。
「……知りません。覚えてません。」
「…じゃあ、あの約束も嘘だったんですか!」
コウの声が廊下に反響する。
「東京の大学に合格したら、次はあっちで会おうって……成人したら飲みにでも連れてってやるって約束したのも、忘れたんですか!」
語気を強くしたコウに、純太の歩みが止まった。しかし、ゆっくりと振り返った彼の瞳は、どこか虚ろだった。
「……人違いだとは思いますが」
静かな、ひび割れたような声だった。
「もし仮にそれが私だとしても、冗談で言っただけでしょう。私は本気で人間(ヒト)と約束なんてしたことがありませんよ。守れるわけがないので」
「え……?」
「コウ君。これ以上付きまとうなら、生活指導の対象として報告しますよ。わかったら、さっさと帰りなさい。雪がひどくなる前に」
突き放すような言葉を吐き捨てると、純太は理科準備室の重い扉を開け、滑り込むように中へ入った。