君の体温が欲しくて

4月1日。
村を包む空気はすっかり緩み、どこを開けても春の匂いがした。コウは、純太と交わした「同じ大学に行く」という約束を胸に、新しい筆箱とノートを鞄に詰め込んで登校した。

「おはよう、コウ! 今日から受験生だな」
校門で見かけた同級生が明るく声をかけてくる。
「おう、分かってるって」
短く応えながらも、コウの足取りは軽かった。昨夜、純太から届いた「無事に東京の部屋に着きました」というメッセージを思い出し、口元が自然と緩む。

あの村の不気味な因習も、血の匂いがする地下室も、もう遠い過去のことのように思えた。自分たちは勝ったのだ。自由を、そして当たり前の日常を手に入れたのだと、コウは確信していた。

賑やかな廊下を抜け、自分の新しい教室のドアを開ける。

新学期が始まったばかりの教室。窓から差し込む春の陽光はあまりに眩しい。

生徒たちのざわめきが最高潮に達しようとしたその時、教卓を囲んでいた誰かが短い悲鳴を上げ、教室の空気が一瞬で凍りついた。

「……何だよ、朝から」

コウが人だかりを割って入った先。教卓の真ん中には、異様な存在感を放つ「それ」が置かれていた。

透明なガラス製の牛乳瓶だった。
中にはなみなみと白い牛乳が注がれ、その白い液体の中に、一匹のドブネズミが閉じ込められている。

校内放送からは新生活を祝うヴィヴァルディの『春』が、軽やかな旋律で響き渡っていた。