君の体温が欲しくて

明日から新しい学年が始まる。
村の事件が一段落し、休学状態だった純太は、大学生活を再開させるために今日、再び東京へと戻ることになっていた。

「……本当に、一人で大丈夫ですか?」

駅のホームで、純太は何度も振り返りながら、隣に立つコウの顔を不安そうに覗き込んだ。
「先生、心配しすぎ。これで十回目だよ」
コウは苦笑いしながら、純太の荷物が入った重いカバンを肩にかけ直してやった。

「だって、おばあさんたちの洗脳が解けたとはいえ、まだ村の雰囲気は不安定ですし……。それに、また何か不吉なことが起きるんじゃないかって、どうしても考えてしまって」

純太がそう漏らすのも無理はなかった。あの「永遠の冬」の恐怖は、そう簡単に拭い去れるものではない。
純太はコウの手を取り、その温もりを確かめるように強く握りしめた。

「ねえ、コウ君。……呪いは、本当に終わったのでしょうか」

静かな問いかけに、コウは少しだけ真面目な顔をして、空を見上げた。
「……わかんねえよ。神様の呪いなんて、最初からあったのかも怪しいしな。でも、あのクソ校長が捕まって、変な薬入りの牛乳もなくなった。全部俺たちで終わらせたんだから大丈夫。」

コウは握り返した純太の手に力を込め、ニカッと不敵な笑みを浮かべた。

「うん、大丈夫だって。あの校長が刑務所の中から、ネズミでも洗脳して村に送り込んでこない限り、もう何も起きねえよ」

冗談めかしたコウの言葉に、純太は一瞬、妙な胸騒ぎを覚えた。だが、目の前で笑う少年の力強さに、その不安を強引に押し込めた。

「……そうですね。変な冗談はやめてください。縁起でもない」
「ははっ、ごめんごめん。それより先生、約束。俺、今年一年死ぬ気で勉強して、絶対先生と同じ大学に行くから。来年の春からは、東京で毎日一緒にいような」

「絶対にですよ。待っていますから」

列車の警笛が鳴り響く。
純太はコウの肩を抱き寄せ、短く、けれど深い誓いを込めたキスを交わした。

「……行ってきます、コウ君」
「おう。行ってらっしゃい、先生」

動き出した列車の窓から、純太はいつまでも手を振り続けた。
ホームで一人、小さくなっていくコウの姿。
春の光に包まれて、やがて芽吹き始めた村の景色の中に溶け込んでいった。