君の体温が欲しくて

三十分ほど車を走らせ、目的の展望駐車場に到着した。
すでに何台かの車が停まっていたが、二人は海が一番よく見える特等席をなんとか確保することができた。

「外、出ましょうか。もう少しで日の出の時刻です」
純太が後部座席から大きなブランケットを取り出し、コウに手渡した。

車を降りると、海から吹き付ける冬の風が容赦なく顔を叩いた。
「うわっ、さむっ!!」
コウが思わず身を縮めると、純太は手早くレンタカーのボンネットの雪を払い、そこに腰を下ろすようコウを促した。

「ほら、コウ君。こっちに来て」
純太は自分が広げた大きなブランケットの中にコウを招き入れ、背後からすっぽりと包み込むようにして一緒にくるまった。

「……あったけぇ」
背中から伝わってくる純太の体温と、二人を包むブランケットの温もりに、コウはホッと息を吐いた。純太の腕がコウの腰に自然と回され、二人はぴったりと密着した状態で東の空を見つめた。

空はまだ暗いが、水平線の彼方だけがほんのりと、薄紫色からオレンジ色へとグラデーションを描き始めていた。

「……あの村にいた頃は、こんな空、見たことなかったな」
コウがぽつりと呟く。
村の冬は、常に重く分厚い雪雲に覆われており、太陽の光が地上に届くことなどほとんどなかった。純太にとっては、それが五年間も続いていたのだ。

「ええ。……僕も、太陽がこんなに明るくて、温かいものだということを……すっかり忘れていました」
純太の声が、微かに震える。

やがて、その時は訪れた。
水平線の向こう側から、ジワリと、刺すような光の筋が漏れ出し――そして、燃えるような黄金色の太陽が、ゆっくりと姿を現した。

「……っ」

あまりの眩しさと美しさに、二人は息を呑んで言葉を失った。
海面が太陽の光を反射してキラキラと黄金色に輝き、冷え切っていた空気が、みるみるうちに光の熱に温められていく。

「先生……」

コウが振り返ると、昇る朝日に照らされた純太の頬には、一筋の光る涙が伝っていた。
しかし、その表情は過去の絶望に泣いているわけではなく、ただ純粋な感動と、生きていることへの深い感謝に満ちていた。

純太は涙を拭うのも忘れ、コウを真っ直ぐに見つめ返した。

「あけましておめでとう、コウ君」

その声は、震えながらも、どこまでも澄み切っていた。
コウは優しく微笑み、純太の頬に流れた涙を指先でそっと拭った。

「あけましておめでとう、先生。……今年も、よろしく」

どちらからともなく顔を近づける。
それは、これから共に生きていく未来を誓い合うような、甘く、そして確かな温もりに満ちたキスだった。

黄金色の太陽が、二人の体を優しく包み込む。
永遠に続くと思われた絶望の冬は完全に終わりを告げ、ここから二人の、新しく温かな季節が始まっていく。