翌日。
雲ひとつない冬晴れの空の下、コウと純太は手紙の宛先となっていた住所へ向かう道すがら、純太が「通っていることになっていた」大学の周辺を歩いていた。
「すげー、やっぱり東京の大学ってデカいな」
立ち並ぶ真新しいキャンパスの建物を眺めながら、コウは目を輝かせた。
「なあ先生、俺ら一緒にこの大学入れたら最高じゃない? 先生と一緒にキャンパスライフ送るの、けっこう夢かも」
「キャンパスライフ、ですか」
純太は少し照れくさそうに笑い、それから真面目な顔になって顎に手を当てた。
「村に閉じ込められていた僕が、戸籍や身分上、今どういう扱いになっているのか全くわかりませんが……でも、もしやり直せるなら、高卒認定試験を受けて、大学受験をやってみてもいいかもしれませんね。なんだか少し、やる気が出てきました」
「マジ!? よっしゃ、じゃあ俺がみっちり勉強教えてやるからな。覚悟しとけよ?」
「それは僕のセリフです、コウ君」
他愛のない未来の話。それがこんなにも温かく、希望に満ちているものだということに、純太は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
並んで歩きながら、コウがふと疑問に思ったことを口にする。
「ところでさ。春から秋の間、先生自身の記憶はどうなってたの?」
「僕の記憶、ですか」
純太は少し歩みを遅め、冬の空を見上げた。
「……ありません。僕自身も、冬以外の季節に自分がどこで何をしていたのか、全くわからないんです」
「えっ……」
「校長先生には、こう言われていました。絵本の中で、呪われた青年が死んだ後も冬になると雪の中を彷徨うように……僕も呪いによって、冬の間だけ村に現れる『幽霊』のような存在になっているのだと」
春が来れば村人の記憶から消え、純太自身も次の冬が来るまで深い眠り――あるいは無に落ちる。それが校長から聞かされていた呪いだった。
しかし、コウは鼻で笑ってその言葉を一蹴した。
「……ふーん。でもさ、俺たちこうして村を抜け出せたわけだし。あのクソ校長の話がどこまで本当か、怪しいもんだよな」
「それは……確かに、そうですね」
もし校長の言葉が絶対のルールではないのだとしたら、純太の空白の記憶には一体何が隠されているのか。
そんなことを考えながら大学近くの広い公園の横に差し掛かった時だった。
広場では、お揃いのスウェットを着た大学生くらいの若者の集団が、ラジカセから音楽を流してストリートダンスの練習をしていた。大学のダンスサークルのようだ。
「あ、先生見て! もし一緒に大学入れたら、ああいうサークル入ろうよ」
コウがからかうように笑って指を差す。
「む、無理ですよ! 人前で踊るなんて恥ずかしくて絶対にできません! だいたい、僕はどんくさいんですから……っ」
純太が顔を真っ赤にして全力で首を横に振った、その時だった。
「――あれ? 純太じゃん!」
音楽の合間に、不意に明るい声が響いた。
ダンスサークルの中でステップを踏んでいた茶髪の青年が、驚いたようにこちらに駆け寄ってくる。
「お前、もう帰ってきたのー? 留学、春までじゃなかったっけ?」
「……え?」
親しげに肩を叩いてきたその青年の言葉に。
純太とコウは、ピタリとその場に凍りついた。
雲ひとつない冬晴れの空の下、コウと純太は手紙の宛先となっていた住所へ向かう道すがら、純太が「通っていることになっていた」大学の周辺を歩いていた。
「すげー、やっぱり東京の大学ってデカいな」
立ち並ぶ真新しいキャンパスの建物を眺めながら、コウは目を輝かせた。
「なあ先生、俺ら一緒にこの大学入れたら最高じゃない? 先生と一緒にキャンパスライフ送るの、けっこう夢かも」
「キャンパスライフ、ですか」
純太は少し照れくさそうに笑い、それから真面目な顔になって顎に手を当てた。
「村に閉じ込められていた僕が、戸籍や身分上、今どういう扱いになっているのか全くわかりませんが……でも、もしやり直せるなら、高卒認定試験を受けて、大学受験をやってみてもいいかもしれませんね。なんだか少し、やる気が出てきました」
「マジ!? よっしゃ、じゃあ俺がみっちり勉強教えてやるからな。覚悟しとけよ?」
「それは僕のセリフです、コウ君」
他愛のない未来の話。それがこんなにも温かく、希望に満ちているものだということに、純太は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
並んで歩きながら、コウがふと疑問に思ったことを口にする。
「ところでさ。春から秋の間、先生自身の記憶はどうなってたの?」
「僕の記憶、ですか」
純太は少し歩みを遅め、冬の空を見上げた。
「……ありません。僕自身も、冬以外の季節に自分がどこで何をしていたのか、全くわからないんです」
「えっ……」
「校長先生には、こう言われていました。絵本の中で、呪われた青年が死んだ後も冬になると雪の中を彷徨うように……僕も呪いによって、冬の間だけ村に現れる『幽霊』のような存在になっているのだと」
春が来れば村人の記憶から消え、純太自身も次の冬が来るまで深い眠り――あるいは無に落ちる。それが校長から聞かされていた呪いだった。
しかし、コウは鼻で笑ってその言葉を一蹴した。
「……ふーん。でもさ、俺たちこうして村を抜け出せたわけだし。あのクソ校長の話がどこまで本当か、怪しいもんだよな」
「それは……確かに、そうですね」
もし校長の言葉が絶対のルールではないのだとしたら、純太の空白の記憶には一体何が隠されているのか。
そんなことを考えながら大学近くの広い公園の横に差し掛かった時だった。
広場では、お揃いのスウェットを着た大学生くらいの若者の集団が、ラジカセから音楽を流してストリートダンスの練習をしていた。大学のダンスサークルのようだ。
「あ、先生見て! もし一緒に大学入れたら、ああいうサークル入ろうよ」
コウがからかうように笑って指を差す。
「む、無理ですよ! 人前で踊るなんて恥ずかしくて絶対にできません! だいたい、僕はどんくさいんですから……っ」
純太が顔を真っ赤にして全力で首を横に振った、その時だった。
「――あれ? 純太じゃん!」
音楽の合間に、不意に明るい声が響いた。
ダンスサークルの中でステップを踏んでいた茶髪の青年が、驚いたようにこちらに駆け寄ってくる。
「お前、もう帰ってきたのー? 留学、春までじゃなかったっけ?」
「……え?」
親しげに肩を叩いてきたその青年の言葉に。
純太とコウは、ピタリとその場に凍りついた。
