君の体温が欲しくて

深夜。
ウィークリーマンションの備え付けのベッドで、二人は背中合わせになって横たわっていた。
窓の向こうからは、絶え間ない車の走行音や遠くのサイレンなど、あの静まり返った雪の村では決して聞くことのなかった都会の喧騒が微かに聞こえてくる。

「……なあ、先生。起きてる?」
暗闇の中、背中越しにコウがぽつりと呟いた。
「はい。起きてますよ」
「俺さ……この前、先生宛ての手紙書いてたんだ。去年の冬に渡された住所に送ろうと思って。でも、いつの間にかどっかで落としちゃったみたいなんだよね」

少し残念そうに笑うコウの声に、純太は小さく目を見開いた。

「……その手紙なら、僕が持っていますよ」
「えっ? マジで?」
「ええ。理科準備室で、君が大量のカイロを貼ってくれた時……君のポケットから落ちたのを、拾っておいたんです」

背中越しに、コウが「あ、そっか」と納得したような声を上げた。

「もしかして、中読んだ?」
「……はい。勝手に見るわけにはいかないと思ったんですが……どうしても気になってしまって。」

純太が申し訳なさそうに謝ると、コウは背中越しに軽く笑った。

「別にいいよ、謝んなくて。見られて困るようなこと書いてないし。」

コウの言葉に、純太は小さく息を呑み、そして静かに目を伏せた。

「……ごめんなさい、コウ君。手紙に僕の通っている大学を案内してほしいと書いてありましたが……実際には、東京の大学になんて通っていません。教育実習生というのも、あの村の呪いが作り出したかりそめの設定に過ぎなかったので」

純太の沈んだ声に、コウはハッとした後、すぐに優しい声で返した。

「……そりゃそうだよな。先生、ずっとあの村で一人だったんだもんな」
「ええ。……だから、君を僕の大学の中へ案内することはできないんですが……。でも、もしよかったら、明日は二人でその大学の辺りを散歩してみませんか」
「マジで!? 行く! 絶対行く!」

弾んだコウの声に、純太もふっと微笑む。

「そういえばさ、あの手紙の宛先の住所って、結局どこだったの? 先生の実家?」
「……僕が5年前、あの村に引っ越す前に住んでいた家です。もう両親も亡くなって、今は誰も住んでいないはずですから、どうなっているかわかりませんが……」
「……そっか」
「せっかく東京に来たんです。散歩のついでに、明日はその住所にも行ってみてもいいかもしれませんね」
「うん、行こう。俺、先生の昔のこと……もっといっぱい知りたい」

コウの優しく、少し眠たげな声が響く。

「……おやすみ、先生」
「おやすみ、コウ君」

窓の外のネオンが薄っすらと部屋を照らす中、二人は静かに目を閉じ、久しぶりの穏やかな眠りへと落ちていった。