校門を抜けるのは危険だと判断し、体育館裏のフェンスを乗り越えて裏山へと続く獣道へと駆け込む。
幸い、外はまた吹雪が強まっており、二人の足跡をすぐに白い闇が覆い隠してくれた。
「コウ君、こっちです! 村の人たちは夕方になると公民館の方へ集まるから、裏道を抜ければ駅まで出られるはずです」
この村の冬を誰よりも孤独に歩き回ってきた純太には、村人たちの行動パターンも、死角となる道もすべて頭に入っていた。
凍えるような吹雪の中、純太はコウの手を引っ張って雪道を進む。
途中、何度か村人たちの姿が見えた。
「……ええ血ぃ、どこや……」
「コウ君……」
吹雪の向こうで、焦点の合わない目をした大人たちが徘徊している。コウの祖父母の姿もあった。二人は息を殺し、古い神社の陰や雪を被った廃屋の裏に身を潜めて、彼らの狂気に満ちた目をすんでのところで掻い潜った。
「ハァッ……ハァッ……」
やがて、雪煙の向こうに、小さな無人駅のホームが見えてきた。
ちょうど、一両編成のローカル線が、警笛を鳴らしながらゆっくりとホームに滑り込んでくるところだった。
「コウ君、走って!!」
「おうっ!」
二人は雪に足を取られながらも必死に走り、閉まりかけた列車のドアに滑り込むようにして飛び乗った。
プシューッ、と鈍い音を立ててドアが閉まる。
『次は、……』
車内に無機質な自動音声が流れ、列車がガタンと重い音を立てて動き出した。
シートに崩れ落ちた二人は、激しく肩で息をしながら、窓の外を見た。
鉛色の空。容赦なく吹き荒れる猛吹雪。
決して出られないと信じ込まされていた、呪われた閉鎖空間。
だが、列車がトンネルを一つ抜けるごとに、あの息の詰まるような重い空気が、嘘のように薄れていくのがわかった。
「……先生」
隣に座るコウが、ポツリと呟く。
「抜けた、みたいだな」
「……ええ」
窓ガラスに額を押し当てていた純太の瞳から、安堵の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
永遠だと思っていた冬が、終わったのだ。列車の暖房が効いた車内で、純太の体は生きた人間としての確かな温もりと汗を帯びている。
「コウ君……本当に、ありがとう。君のおかげで、僕は……っ」
純太は涙を拭うのも忘れ、隣のコウを強く抱きしめようとした。
しかし、コウの体は列車の暖房の中にいてもなお、氷のように冷たいままだった。
「……俺の方こそ、先生が無事でよかった」
コウは少しだけ青白い顔で、それでも安心したように笑い、純太の温かい肩にコトリと頭を預けた。
コウが引き継いでしまった『呪い』そのものがどうなったのかは、まだ誰にもわからない。
それでも、二人の繋いだ手だけは、決して離れることはなかった。
幸い、外はまた吹雪が強まっており、二人の足跡をすぐに白い闇が覆い隠してくれた。
「コウ君、こっちです! 村の人たちは夕方になると公民館の方へ集まるから、裏道を抜ければ駅まで出られるはずです」
この村の冬を誰よりも孤独に歩き回ってきた純太には、村人たちの行動パターンも、死角となる道もすべて頭に入っていた。
凍えるような吹雪の中、純太はコウの手を引っ張って雪道を進む。
途中、何度か村人たちの姿が見えた。
「……ええ血ぃ、どこや……」
「コウ君……」
吹雪の向こうで、焦点の合わない目をした大人たちが徘徊している。コウの祖父母の姿もあった。二人は息を殺し、古い神社の陰や雪を被った廃屋の裏に身を潜めて、彼らの狂気に満ちた目をすんでのところで掻い潜った。
「ハァッ……ハァッ……」
やがて、雪煙の向こうに、小さな無人駅のホームが見えてきた。
ちょうど、一両編成のローカル線が、警笛を鳴らしながらゆっくりとホームに滑り込んでくるところだった。
「コウ君、走って!!」
「おうっ!」
二人は雪に足を取られながらも必死に走り、閉まりかけた列車のドアに滑り込むようにして飛び乗った。
プシューッ、と鈍い音を立ててドアが閉まる。
『次は、……』
車内に無機質な自動音声が流れ、列車がガタンと重い音を立てて動き出した。
シートに崩れ落ちた二人は、激しく肩で息をしながら、窓の外を見た。
鉛色の空。容赦なく吹き荒れる猛吹雪。
決して出られないと信じ込まされていた、呪われた閉鎖空間。
だが、列車がトンネルを一つ抜けるごとに、あの息の詰まるような重い空気が、嘘のように薄れていくのがわかった。
「……先生」
隣に座るコウが、ポツリと呟く。
「抜けた、みたいだな」
「……ええ」
窓ガラスに額を押し当てていた純太の瞳から、安堵の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
永遠だと思っていた冬が、終わったのだ。列車の暖房が効いた車内で、純太の体は生きた人間としての確かな温もりと汗を帯びている。
「コウ君……本当に、ありがとう。君のおかげで、僕は……っ」
純太は涙を拭うのも忘れ、隣のコウを強く抱きしめようとした。
しかし、コウの体は列車の暖房の中にいてもなお、氷のように冷たいままだった。
「……俺の方こそ、先生が無事でよかった」
コウは少しだけ青白い顔で、それでも安心したように笑い、純太の温かい肩にコトリと頭を預けた。
コウが引き継いでしまった『呪い』そのものがどうなったのかは、まだ誰にもわからない。
それでも、二人の繋いだ手だけは、決して離れることはなかった。
