君の体温が欲しくて

心ゆくまで唇を重ね合わせ、やがてゆっくりと体を離したコウは、短く息を吐いて純太の肩を掴んだ。その瞳には、先ほどまでの熱情とは違う、冷徹なまでの決意が宿っている。

「……先生。ここを出よう」
「え……?」
「さっき、家庭科室で俺が先生の血を飲んで、先生の顔色が変わったところ……クラスの奴らにバッチリ見られた。あいつら経由で、絶対に校長の耳に入る。のんびりしてる暇はない」

コウの冷静な指摘に、純太はハッとして血の気の戻った顔を青ざめさせた。

「で、でも……逃げるって、どこへ……っ」
「東京だよ。」
「無理ですよ! だって僕は……いや、今の君はもう『生贄』なんだ。校長先生が言っていた。この村からは一生出られない。逃げようとしても、永遠にこの雪に阻まれるって……!」

パニックに陥りかける純太に対し、コウは純太の両頬を冷え切った手で挟み込み、真っ直ぐにその目を見据えた。

「先生。あんた、それを自分で『試した』ことはあるのか?」
「……え?」
「校長にそう言われてから、一度でも駅に行って、東京行きの電車に乗ろうとしたことはあったのかよ」

純太は息を呑んだ。
頭を殴られたような衝撃だった。

『君はこの村から一生出ることはできない。逃げようとしても、永遠に雪に阻まれる』

絶望のどん底で告げられたその言葉を、純太はただ鵜呑みにしていただけだった。呪いの恐ろしさに心を折られ、「逃げる」という選択肢すら最初から放棄させられていたのだ。

「……ない。一度も、試したことはなかった……」
「なら、決まりだ。行こう」

コウは純太の手を強く握り直した。
さっきまでとは逆だ。コウの手は恐ろしいほど冷たく、純太の手は温かい。純太はその冷え切った手を、今度は自分が温めるように強く握り返した。

「……はい。」

二人は理科準備室を飛び出した。